NHKが昨年5月に放送した報道番組「クローズアップ現代」の「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」などでやらせが指摘された問題が拡大し続けている。4月28日にNHKが「過剰な演出」「誤解を与える編集」があったとする一方、捏造(ねつぞう)につながるやらせはなかったとする調査報告書を発表した。しかし、時間がたつほどに疑問点がどんどん明らかになり、調査報告書自体が“やらせ”では?と思わせる点が出てくる。NHKにはさらなる批判が噴出しそうだ。

「出家詐欺――」で詐欺に関わる“ブローカー”として匿名で紹介された大阪府内の男性A氏(50)は知人男性B氏とNHK大阪報道局のN記者から依頼され、「架空の人物を演じた。真実と違う報道で人権を侵害された」と主張している。B氏は“多重債務者”として出演した。


 NHKは調査報告書でやらせなしとしたものの、それを否定する情報が次々と出てくる。1日発売の写真週刊誌「フライデー」では、“詐欺グループの関係者”として出演した京都市在住の男性が実名で「出家詐欺などという手口は存在しないんです」と証言した。


 調査結果を公表したことで幕引きを図ろうとするNHKだが、調査結果には不自然な部分が多いようだ。A氏に近い人物は「N記者とB氏が言うことは全て真実という前提で話が進んでいる」とあきれた。


 その信用を揺るがしかねない事実もある。A氏、B氏、N記者は撮影後に食事を共にしている。その際に知人が一緒にいたことはA氏も認めているが、その知人は「NHKは映像処理を完璧にするのでA氏だとは分からない」という内容の会話が食事会でされたと調査報告書で証言している。知人は善意の第三者として登場しているが、A氏に近い人物は「知人というのは女性でB氏と非常に近しい人。記憶だってあいまいになるし、口裏を合わせるなんて簡単にできる。関係などを一切、伏せて発表しているNHKはおかしいですよ」と憤った。


 また、法曹関係者は「あの文面で全てを終わらせようとしたのなら、NHKはなんのために弁護士を調査委員会に入れたのか分からない」と疑問を語った。重ねて「文面では証言、証拠に関するものをまったく提示していない。収録テープに入っていた放送されていない部分も文字に起こされていたが、映像は確認できないから、本当に言っているか分からない」。検証作業に必要な情報を出さないNHK側の態度を批判した。

 内容も評価できないものだったようだ。「一方当事者の主張書面みたいなもの。A氏に関しては合理的かどうか判断しているが、N記者、B氏については最初から事実という前提での裏づけをしようとしている。調査報告書なんだから、もっと両方の言っていることの合理性を判断すべきだった」(前出法曹関係者)と、NHK調査委員会の身内への甘さを指摘した。


 B氏はN記者が取材した別の複数の事件でも証言していた事実が明らかになっている。それでもNHKとしては、N記者とB氏が信用に足る人物として調査報告書では全面的に証言を認めている。一方、A氏の証言について「合理性を欠いている」と信用性に疑義を呈した。


 しかし、N記者が「出家詐欺に詳しい人物はいないか?」と“事情通”として付き合いのあったB氏に相談して、B氏が「自分自身が近く出家の相談に行くつもりだ」と、たまたま出家詐欺を行おうとしていたところから話は始まる。このNHKの主張に合理性があるのだとすれば、奇跡としか言いようがない。


 N記者は4月28日付で停職3か月の懲戒処分(発令は7日予定)となった。処分理由は「裏付取材を尽くさず誤ったコメントを放送したほか、視聴者を誤解させる過剰な演出を行い、公共放送に対する信頼を著しく傷つけた」としているが、現在の調査報告書では信用が回復されないとNHKは早く気づくべきだ。