NHKの報道番組「クローズアップ現代」の“やらせ疑惑”でNHKの調査委員会が9日発表した中間報告をめぐり、テレビ業界に思わぬ衝撃が走った。ある民放の報道番組関係者が「NHKにコレをやられると痛い!」と真っ青になっているのだ。いったい中間報告のどの部分がどのように業界的にマズいのか? 追跡すると報道機関としてのテレビが抱える暗部が浮き彫りになった。

 問題となっているのは、昨年5月14日放送の「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」。番組内で詐欺に関わるブローカーとして匿名で紹介された大阪府内の飲食店店長の男性A氏が、大阪放送局の記者に頼まれ「架空の人物を演じた」と主張していた。

 中間報告では、やらせに関して記者とA氏らとの間で証言の食い違いがみられる一方、取材上の裏付けが不十分で誤りがあった点や、不適切な構成、過剰演出の疑いなどが浮かび上がった。

 同番組の国谷裕子キャスター(58)は9日の放送で、中間報告を受け「視聴者の皆さまなどにおわびいたします」と謝罪した。

 民放局にとって衝撃的だったのは、番組制作の“カラクリ”を明かしてしまったことだという。調査委はA氏がブローカー役を演じさせられたと主張しているVTRは、事前交渉を行ったうえで撮影されたにもかかわらず、番組では記者がブローカー(A氏)の存在を突き止めてインタビューを行った形などになっており、適切さを欠いた構成で過剰演出の恐れを指摘した。

 ある民放の報道系ディレクターは「天下のNHKにこれをやられると痛い! 番組制作において、いわゆる“仕込み”は付きもの。表面上、それは決して認めてはいけないことなのに…」と肩を落とした。最近もニュース番組で道行く人のアンケートを取った際、同一女性が名前や職業を変えて複数回出演していたことが判明し、物議を醸したばかりだ。

「ぶっちゃけ、ドラマのエキストラと同じように、仕込み専門の業者も存在する。それでも決して仕込みと認めてはいけないのがこの業界の暗黙のルールなのに」(同)

 テレビなどから詐欺師や詐欺被害者の紹介を頼まれることがある詐欺研究家の野島茂朗氏はこう語る。

「メディア側は『出してやる!』という傲慢(ごうまん)さで、出る側の気持ちを理解していません。詐欺師が『詐欺しています』ってテレビに出演して発言するメリットはどこにありますか? 詐欺師はテレビの謝礼よりも割良く稼いでいるのに、手口を明かしたり、出演したりしたら、詐欺に遭わない知恵を被害者予備軍に与えて、詐欺をしづらくなります。そもそも、顔にモザイクをかけて、音声を変えた出演でも、分かる人には分かります。出演しただけで、詐欺師は顔をさらしたのと同じで、逮捕されるリスクがグ~ンと上がります」

 しかし、テレビは内容に沿った映像を撮らねばならない。

 野島氏は「放送作家やプロデューサーが作った机上の空論に当てはまる出演者を探す制作スタッフや記者も、職務命令に従わないと仕事を失うので、だまし討ちやヤラセが生まれてしまうのです」と指摘する。

 A氏の代理人は中間報告を受けて「各関係者の供述内容が明らかにされたことはポイントの明確化という意味で評価しておりますが、承服できない部分も多く存在しておりますので、内容を精査したうえで、今後の対応について改めて検討致します」とコメント。

 肝心のNHK関係者も「視聴者にとっては迫真のドキュメンタリーと思っていたものが、実は事前交渉のもとで成り立った出来レースということが暴露されてしまった。今後同じような番組を作っても視聴者はうがった見方をしてしまう。これをやらせと呼ぶか、過剰演出と呼ぶかは別として、番組制作の“暗部”を公表した影響は大きい」と話している。

 視聴者の受信料で運営するNHKが、図らずも看板番組での“仕込み”を告白した中間報告。やらせを否定するためとはいえ、皮肉な格好となった。