作家・辻仁成氏が現地で見た仏テロパニック

2015年01月22日 11時00分

風刺画について語る辻氏

 フランスに在住している作家の辻仁成氏(55)が、多数の犠牲者を出した風刺週刊紙「シャルリー・エブド」へのテロ襲撃事件について、当時の様子などを本紙に生々しく語った。このテロについては日本でも「表現の自由」とリンクして議論になっているが、辻氏は「フランスという国の歴史を学ばなければ、本質は理解できない」と指摘。作家が見た「Je Suis Charlie(私はシャルリー)」のフランスとは…。

 辻氏は20日に都内で行われた、フランス出身のリュック・ベッソン監督(55)の映画「LUCY/ルーシー」のDVD発売イベントにゲストで登場した。「久々にベッソンの本気を見た」とPR。わずか2日間の滞在で息子の待つフランスにとんぼ返りする前に、テロ当時の様子を本紙に明かした。

 テロが起こった7日のフランスは、国内中が大パニックだったという。「情報が錯綜し、政府から『マスコミの情報は間違っているから信じないでくれ』とお達しが出たほどでした」

 報道は過熱し、「テロリストたちが犠牲者の頭を銃で撃ち抜く映像が加工処理なしに放送されていた」。テロリストたちが逃走した際、いったん郊外に逃げて戻ってきたことから、「最後には空港テロで殉教するつもりだったのではないか」との見方もあった。

 計2件のテロではユダヤ系スーパーも襲撃された。その影響で「今後を懸念したフランス国内にいる多くのユダヤ人たちが、イスラエルに移住する動きが活発になっている」と指摘する。

 問題となっているイスラム教の預言者であるムハンマドの風刺画の賛否について、辻氏は「僕は、あの(風刺画の)表現方法については、賛成ではありません」と前置き。

「フランスの風刺画の歴史は古く、ルイ16世(1789年に起きたフランス革命当時の国王)の時代からあった。抑圧された市民たちのガス抜きでもあり、自由を勝ち取る意味での一つの象徴でもあった。つまり『タブーがない』ことが『自由の象徴』である。彼らは何もイスラム教だけを風刺の対象にしているわけでなく、キリスト教に対しても同じですから」

 日本人の感覚では、到底笑えない風刺でも「だからこそ、彼らは強い意志でやる。人口6000万人程度の国でデモに400万人が参加する。ある意味で“変わり者”の国ですよ。だからこそフランスという国は面白い部分もある」。この違いを理解することが第一歩だという。

 風刺画に対する日仏の感覚の違いについては、フランス人と討論になった。

「事件が起きて、現地の人たちは『次の号は、さらに輪をかけたことをやるぞ』と誰もが分かっていた。僕が『気持ちは分かるが、でも、あの表現はない』と言ったら、猛反論された(笑い)。フランス人にとって『タブーなしの自由』ということが、唯一信じる“神”的なものなのでしょう。そう考えると、僕の頭の中ではピタッとハマりました」

 くしくも同時期に日本では、所属事務所の先輩にあたる「爆笑問題」がNHKでの正月特番で、政治家ネタがボツになったことが話題になった。表現の自由との関連が取り沙汰されたが、辻氏は「フランスにいて、そのニュースをネットで見て、非常に興味深い比較だなと思った。なんというか“苦笑問題”でした。細かくは言及しませんが、日本のジャーナリズムは、もっと頑張らなければいけないなと思う。国や生活、すべてが良くなるには“活字の力”が大事。僕はそういった意味でも発信していきたい」と語った。