文太さんの魂が“地上波放禁映画”の封印を解いた!? 転移性肝がんによる肝不全のため亡くなった菅原文太さん(享年81)の追悼番組としてテレビ東京が、4日午後1時35分から映画「トラック野郎 天下御免」(1976年公開)を放送すると発表。業界関係者を驚かせている。実は最近のテレビ界、特に地上波では「『トラック野郎』を放送するのはコンプライアンス上不可能」といわれていたからだ。その定説を覆したテレ東の“勇気”も特筆ものだが、やはり最大の要因は日本中から「文太兄い」と慕われた故人の偉大さゆえ、と言えるだろう。

 1975年に始まった「トラック野郎」シリーズは、文太さんが世に出るきっかけとなった「仁義なき戦い」シリーズに続いて、東映のドル箱作品となった。

「トラック野郎」はすべて文太さんが主役で、全10作が製作された。愛川欽也(80)との名コンビが評判となり、多くの観客を動員した。4日に放送される「天下御免」は同シリーズの第4作だ。

 大ヒット作となった「トラック野郎」シリーズは、一時テレビでもよく放送されていた。ただ、最近は地上波で放送されることは全くない。その理由について映画関係者はこう指摘する。

「90年代ごろまでは、よくテレビでも放送されていた。ただ最近のテレビは常々『コンプライアンス』が叫ばれ、放送される基準が昔とは完全に変わってしまった。その影響で最近はテレビ(地上波)で放送されなくなったんです」

「トラック野郎」シリーズのどこがコンプライアンスに引っ掛かってしまうのか? 

「当時の長距離トラック運転手といえば、がっしりとしたガテン系の人々のイメージ。差別用語は飛び交うし、すぐケンカする。女性に対しても荒っぽく迫る。今なら『差別だ』『女性蔑視』と抗議が来る可能性があるので、どの局も敬遠してしまうんです」(同)

 もちろん、そういったところにも「トラック野郎」の面白さがあるのだが「今のテレビ局はしゃくし定規に『ダメなものはダメ』という姿勢。これでは表現の自由なんてあったもんじゃない」(同)

 そのうえ「トラック野郎」が放送しづらいのは別の理由もある。

「主人公がアウトローなトラック運転手たちですから、最大積載量を超える積み荷を載せて運ぶ描写などがある。実は、これが問題。テレビ局にとって自動車メーカーは大スポンサーだから、交通ルールを守らない描写は、ご法度になっているのです」(テレビ局関係者)

 そのためこんな笑い話もある。

「例えば、銀行強盗のドラマを作ると、犯人が銀行から車で逃げる際、急いでいてもシートベルトをしないといけない。これもスポンサーへの配慮。以前に作家の百田尚樹氏もテレビで『銀行強盗は良くて、何でシートベルトしなきゃダメなのか?』と話していたが、これがテレビの現実」(同)

 確かに、差別などの意識が高まり「問題視されるような言葉は使わないに越したことはない」との風潮が強まった印象はある。

 だからといって、一世を風靡した映画を事実上、封印してしまうのは「やりすぎだろう」の声も出ている。今のテレビは、なぜここまで表現に規制がかかっているのか? 

 芸能評論家の肥留間正明氏は「最近よくコンプライアンスなどと言いますが、そうではない。これはテレビ局による自主規制です。事なかれ主義が蔓延して、このような事態となったのです」とバッサリ斬り捨てる。

 確かにここ近年、テレビ局はクレームが殺到するなど、問題が起きることをとにかく嫌がってきた。だからこそ、当たり障りのない内容ばかりとなってしまったのだ。ちなみに「放送禁止用語」という言葉があるが、これも誰に禁止されたわけではなく、テレビ局自身による自主規制だ。

 このようなテレビ局の姿勢に肥留間氏は「かつて『8時だョ!全員集合』にも賛否両論ありました。抗議も来ました。それでも放送したのです。それが今はちょっとでもクレームがついたら、プロデューサーもディレクターも制作会社もみんな腰が引けてしまう。これはテレビマンの責任ですよ」と言い切る。

 文太さんの追悼放送ではBS―TBSが7日に「トラック野郎 望郷一番星」(76年)を放送するが、地上波での放送はテレ東の“英断”と言える。「さすがに差別用語などはカットするでしょうが、(地上波で)放送するだけでもすごいこと」(前出の映画関係者)

 他局からは「テレ東だからできる。ウチなら無理」との声もあるが、文太さんの死が名作の封印を解いたのも事実。それだけの不世出の俳優だったのは間違いない。