人気職業ながら、就き方がよく分からないのが「アニソンシンガー」。希望者は増加中だというが、どう“就活”すればいいのか見当もつかない。そんな中、現在放送中のアニメ「ドラゴンボール改」のオープニング主題歌「空・前・絶・後」を歌う歌手の谷本貴義が、業界への入り方や歌手としてのYOFFY(サイキックラバー)とともに技術メソッドを記した「アニソン☆シンガーになりたい!」(アルファノート)を出版した。人気アニソンシンガーがアニソンについて語りつくす。


――著書にもあるがアニソンシンガーの“就職方法”は分からない

 谷本:オーディションだけでなく、ミュージシャン仲間のつながりや、誰かの弟子についたりなどあります。技術はもちろん、業界への入り口を知らない人に向けて、この本には事細かに書いています。

――谷本さん自身はどうやってアニソンシンガーに

 谷本:もともとスタジオミュージシャンで、編曲やディレクターをやっていた。ただ本当はアーティストになりたかった。そんな中、エンジニアから「こういうアニソンを歌える男の子の歌手を探しているんだ」と言われ、隠していた自分のデモテープを渡した。それを気に入ってもらえてデビュー曲の「One Vision」(デジモンテイマーズ挿入歌)を歌うようになって、現在の活動に続きます。

――業界では珍しい入り方なのか

 谷本:僕の年代のアニソンシンガーはスタジオミュージシャンからの転身が多い。CMやコーラスの仕事と同じでアニメの仕事はスタジオワークのひとつだった。当時はアニソンをやりたいという人はそんなに多くはなくて、ただ歌いたいという思いの人が多かったと思う。その後アニソンがジャンルとして大きくなり始めた。

――どの辺りからジャンルとして拡大していった

 谷本:一つは大人向けの作品が多くなった14~15年前。そのころは僕もよく制作していたけど「大人のアニメの歌が売れた」「ライブをするとお客さんが集まる」と聞かれるようになって、それが第一波だった。その後、エヴァンゲリオンやデジモンなど、アニソンがジャンルとして大人気になっていたような気がします。

谷本も主題歌を歌うドラゴンボールは海外では国の文化、思想として根付いている(画像は「空・前・絶・後」のCDジャケット)
谷本も主題歌を歌うドラゴンボールは海外では国の文化、思想として根付いている(画像は「空・前・絶・後」のCDジャケット)

――アニソンシンガーにも変化はあったか。声優が歌うことも多いが

 谷本:最近の傾向としては、そのアニメの主役の方など、声優の方が歌うことも多くなってきている。以前は声優と歌の仕事は隔たりがあったけれど、最近は歌える声優さんも増えてきた。どんどん歌って日本のアニソンシーンを盛り上げていただければ。もちろん自分の歌声が必要とあれば真っ先に行きますけれど!

――アニソン歌手になって得だったこと

 谷本:たくさんあるけど、世界中いろんなところで歌えることですね。4月にコスタリカ行きましたし、7月にはブラジルで歌います。北中米では毎週どこかでコンベンションが行われていて、日本人の歌手もひっきりなしで行っているいるんです。毎年3、4か国は行っていますね。ブラジルは広大な上、お金がない人たちもバスで来る。現地に行くと「タニモト、僕は3日かけて会いに着たんだ」と感動してくれます。

――思い出深い場所は

 谷本:2年前の南米4か国ツアーで行ったチリ。当時は学生運動が盛り上がっていて、何十メートルもの大きな球を“元気球”に見立てて国会に学生たちが投げ込むというニュースが新聞の1面に載っていた。ドラゴンボールは日本ではアニメだけれど、海外では国の文化、思想として根付いている国も多い。ドラゴンボールも政治の中でキーワードとして使われていて悟空が社会を動かしているんです。

――そんな世界中で人気のドラゴンボールの主題歌を歌う

 谷本:僕自身が作品の大ファンなので光栄。作詞が森雪之丞さんということで、ドラゴンボールの世界観が前面に出つつも、僕たちにもう一回何かを教えてくれるメッセージが入ってくるので、テレビサイズももちろんなんですけど、フルサイズだとより前面に出てくるので楽しみにしてほしい。あと6月28日に新宿ルイードでワンマンライブをやるのでそちらにもぜひ来てほしいです。

――最後にアニソンシンガーになりたい人へのメッセージを

 谷本:技術的なことは本に300%くらい書いているんですが、ハートの部分ですかね。偉そうな言い方で恐縮ですが「心を磨く」。毎日を自分に誠実に。日頃の行いや言葉が歌になって現れてくる。歌う姿勢、気持ちの持ち方はみんなそれぞれ考えて編み出してほしい。

☆たにもと たかよし・・・1996年からスタジオミュージシャンとして活動しゲームやCM曲などを手がける。01年に「One Vision」でメジャーデビュー。以後は「君にこの声が 届きますように」など多数のアニメ、特撮ソングを歌う。現在放送中のドラゴンボール主題歌のほか、Project.RとしてYOFFY、鎌田章吾とともに「烈車戦隊トッキュウジャー」のエンディング曲も歌っている。公式ブログはこちら。公式ツイッターは@tanimoto_tak