「ロマンポルノ出身」誇りにしていた蟹江敬三さん

2014年04月05日 18時00分

ロマンポルノ出身を誇りにしていたという蟹江敬三さん
ロマンポルノ出身を誇りにしていたという蟹江敬三さん

 昨年大ヒットしたNHK朝ドラ「あまちゃん」のおじいちゃん役や、テレビ東京系「ガイアの夜明け」のナレーションなどで知られる名バイプレーヤー蟹江敬三さんが、3月30日に胃がんのため亡くなっていたことが4日わかった。69歳だった。かつての日活ロマンポルノ俳優から映画、ドラマの凶悪犯役などを経て刑事役もこなし、最後は「あまちゃん」で見せた“チョイ悪”おじいちゃん役まで、ありとあらゆる人物になりきる“無限大の顔を持つ”俳優だった。そんな蟹江さんの最期の仕事ぶりを関係者が明かした。

 蟹江さんは30日に亡くなり、本人と家族の意向で公表されないまま、2日に親族だけで葬儀が営まれた。後日「お別れの会」が開かれる予定だという。

 演出家の蜷川幸雄氏(78)らと1968年に「現代人劇場」を旗揚げした蟹江さんは根っからの役者だった。演劇活動を中心に、映画やテレビにも顔を出すようになったが、演技が高い評価を得たのは、日活ロマンポルノ作品「天使のはらわた~赤い教室」(79年)だった。

 人気劇画家、石井隆氏の同名シリーズの映画化2作品目で、主演の水原ゆう紀演じる名美のベッドシーンをブルーフィルムで見たエロ雑誌の編集者・村木(蟹江さん)は、運命的な何かを感じて、雑誌モデルを依頼するために待ち合わせた場所に向かうところで、警察に連行されてしまう――というストーリーだ。

 髪を振り乱してエキセントリックに警官に逆らう姿や、名美に心を打ち砕かれ憔悴(しょうすい)していく演技は鬼気迫るものがあった。

「蟹江さんはロマンポルノ出身ということを誇りにしていた。ロマンポルノはしっかりとした映画作りをしていた。その中で役者としての基礎ができたから、蟹江さんはロマンポルノ時代を大事にしていたのでは」と映画関係者。

 以降、蟹江さんは刑事モノの凶悪犯や時代劇の下手人役を多くこなした。やがて、今や大ブレーク中の水谷豊(61)の出世作「熱中時代」の第2シリーズ(80年)で、お人よしの巡査を演じ、ひと味違う“蟹江ワールド”を見せつけ人気となり、その後は「スケバン刑事Ⅱ」「ヤヌスの鏡」などを経て、ベテラン刑事など重みのある役を味わい深く演じた。

 だが、今年1月から体調を崩し2002年から務めていた「ガイアの夜明け」のナレーターも休みがちだった。関係者によると「昨年末、今年1回目の放送分の収録から『体調不良のため休みたい』とお話しされて、1か月半くらい休まれたんです。その後、いったんは2月に復帰されたのですが、再び3月になって“やっぱり調子が悪い”と、休んでいた状態でした」。

 なんとか、声だけは出し続けたいと執念を燃やしていたようだ。

 そのナレーションぶりは「包容力のある、渋みのある声が好評だった」というが「私たちも復帰を待っていましたが、近い関係者の間では、病状はかなり悪いようだとは聞いていました。ただ、こんなに早く逝かれるとは…」と前出関係者は声を詰まらせた。

 蟹江さんの“素顔”にまつわるエピソードを明かすのは演劇ライターだ。「新宿南口のタカシマヤにある紀伊國屋書店の演劇コーナーを訪れて、演劇関係の本をよく買っていました。いつも帽子にマスクで変装して。冬場なんか黒の革ジャン姿で、まるで張り込み刑事のようでしたよ。声を掛けたら、一瞬“クソッ、見つかったか!”という顔をされて、思わず笑ってしまいましたよ」

 20年来の付き合いがあった元舞台演出家は「去年12月に電話で話したときは全く元気でした。仕事も引き受けるという状態だったのに…」と肩を落とす。「『役作り』という言葉が大嫌いでしたね。『役は作るもんじゃない。なりきるもんだ』と。あまり女性ファンを欲しがるタイプではなく、同じ団塊世代の男性ファンがいることをとても喜んでいました」

 昨年11月には、ネット上で蟹江さんの死亡説が流れたが、本人は「老人をちゃんと演じるまでは、死ねないだろ!」と当時、話していたという。「あまちゃん」では遠洋漁業に従事する現役漁師のおじいちゃんを好演。とても逝ってしまうようには見えなかった。

☆かにえ・けいぞう=1944年10月28日、東京都生まれ。都立新宿高校を卒業後、「劇団青俳演劇研究所」に入る。66年にTBS系「おかあさん」でドラマデビュー、67年に「あゝ同期の桜」で映画デビュー。68年に演出家・蜷川幸雄氏らと「現代人劇場」を、72年には「桜社」を旗揚げ。一方では日活ロマンポルノにも出演し、強姦魔役は「強姦の美学」とまで評された。その後は日テレ系「熱中時代」(80年)で巡査役、フジ系「スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説」(85年)で暗闇機関のエージェント役、フジ系「鬼平犯科帳」(89年)では密偵役など幅広い役柄を演じる名バイプレーヤーとして活躍(※シリーズは開始年)。近年ではナレーターのほか、昨年大ヒットしたNHKの朝ドラ「あまちゃん」で能年玲奈が演じた主人公・天野アキの祖父役としてお茶の間に親しまれた。