芦田愛菜(9)主演の日本テレビ系連続ドラマ「明日、ママがいない」で、ついに“犠牲者”が出た。同局のOBで法政大学社会学部(メディア社会学科)教授の水島宏明氏(56)によると、ある若者がドラマを見た直後にパニックとなり、リストカットに及んだという。水島氏は21日、本紙の取材に「制作現場の想像力のなさが原因」と“古巣”を一刀両断。同日には全国児童養護施設協議会と全国里親会が会見し、ドラマ内容の改善を求めた。放送続行を強行した日テレが、集中砲火を浴びる事態に発展している。

放送中止できない「明日ママ」3つの呪縛



 児童養護施設で暮らす“母なき子”を題材にした同ドラマをめぐっては、すでに熊本市の慈恵病院が同局に放送中止を申し入れている。21日には全国約600の施設から成る全国児童養護施設協議会と全国里親会が厚生労働省で会見し、過激な描写を改善するよう訴えた。

 同協議会の藤野興一会長(72)によると「芦田愛菜ちゃんが小学3年生だからだと思うが、同じような境遇の子が学校で『おまえが(ドラマの)主人公なのか』と根掘り葉掘り聞かれるケースが出ている」。里親会の星野崇会長(68)も「それまで周囲から『大変ですねぇ』と思われてきた里親さんたちが、好奇の目で見られないか心配だ」と危惧する。

 さらにショッキングな報告もある。施設出身のある若者が、初回放送(15日)を見た後にフラッシュバックを起こし、リストカットに及んだというのだ。これは日本テレビ放送網の元記者・解説委員で、「NNNドキュメント」のチーフディレクターも務めた水島教授の元に寄せられた情報で、ネット上ではその全容が公開されている。

 それによると、若者は放送翌日に「『明日、ママがいない』を見ましたか? 怖かった…。ショックでした。あれを見て昨夜、ものすごいパニックになって具合が悪くなって…」と述べ、その腕には3本の生々しい傷痕が残されていたという。幸いにも大事には至らなかったが、児童福祉関連に豊富なネットワークを持つ水島氏は「今後も犠牲者が出る可能性はある」と警鐘を鳴らした上で、騒動の本質にこう斬り込んだ。

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「制作する側の想像力、取材力が足りない。テーマがテーマだけに、慎重に話を進めなければならなかった。専門家に話を聞けば『そこを踏んだらアウト』という部分はすぐにわかったはずだ」

 本来なら、日テレの社会部記者や専門家と何度も話をすり合わせ、実際の施設とも一緒になってドラマを作っていくことが望まれたが「今のテレビ業界は忙しく、時間も金もない。専門家や施設と協議していては、とても締め切りに間に合わない。最終的に『もうこれでいくしかない』となったのだろう」と水島氏。

 脚本監修に「家なき子」(日本テレビ系)や「ひとつ屋根の下」(フジテレビ系)などの人気作を手掛けた野島伸司氏(50)を起用した影響も大きいという。

「他局の人から聞いたが、野島さんは現場取材はほとんどしないらしい。だからこそ、独創的な作品を描けるようだ。逆に言えば、そんな野島さんを起用した時点で、局としては、ある程度のハレーションが起きることは想定していた。確信犯だけにタチが悪い」

 過去にもドラマへの批判が話題となったケースはあったが、水島氏は「今回は次元が違う」とも指摘したうえで「抗議しているのは、圧力団体やネット右翼ではなく、慈恵病院などその道のプロの方たち。公共性の高いテレビ局がそうした声を拾わなくていいのか。視聴率は取っても日テレは信用を失う」と力説した。

 日本テレビ総合広報部は21日、本紙に「このドラマは、子供たちの視点から『愛情とは何か』を描き、子供たちを愛する方々の思いと、子供たちがそれぞれの人生をつかみ取っていく姿を真摯に描いていくものです。制作に当たっては、児童養護施設の子供たちの尊厳を冒さぬよう配慮するとともに、偏見を助長することのないよう留意しています」とコメント。

「子供たちへの配慮が足りない」などの指摘については「真摯に受け止め、今後とも内容に細心の注意を払ってまいります」とした。あくまで強行姿勢を崩さない日テレが持ちこたえられるか。微妙になってきた。