「あしたのジョー」の街・山谷にワンコイン映画喫茶「泪橋ホール」誕生

2019年03月28日 17時30分

泪橋ホールをオープンした多田裕美子さん

“日雇い労働者の街”として知られる東京・山谷地区に先頃、昭和のにおい漂う珍しい喫茶店が誕生した。その名も「泪橋ホール」(台東区日本堤)。漫画家・ちばてつや氏の「あしたのジョー」の舞台として知られる泪橋の近くにあるこの店では、500円のワンコインで映画が見られる。対象は年金や生活保護の受給者だ。

 この店を開店させたのは、かつて山谷で食堂を営んでいた両親を持つ多田裕美子さん(53)。

「もう長い間、山谷には映画館がなかった。この街に“場”を作りたかったんです。山谷は浅草からも近いというのに寂しくなりました。今の山谷は一線を退いた日雇い労働者のための福祉の街になっていて、外国人旅行者は安宿に泊まるためにやって来ます。お金がなくて映画館に行けないような人でも、古き良き昭和の映画が見られるような映画喫茶を作りたかったんです」

 月曜から金曜まで映画を上映する(定休日もあり)。時代劇やミュージカルなどといった作品が中心だ。上映時の客席は25席ほどあり、入り口付近に設置されているスクリーンに映し出される。年金や生活保護の受給者は500円、一般客の観賞料は800円だ。店内にはオークションで買ったという映画のポスターも数多く貼られている。

 名物となっているのは、作り方を母親に教わったというギョーザ(5個で300円)だ。日替わりの総菜や漬物、肉じゃが、チリコンカーンもある。

 ユニークなのは、映画を見ながらこうした自慢の料理を食べたり飲んだりできること。テーブルや椅子は喫茶店として営業しているときの配置のままなので、テーブルにビールや日本酒、ウーロンハイなどを置き、映画を見ながら飲むことも可能だ。

 多田さんは「私は浅草の街で生まれ育ちました。高度成長期、浅草の街はにぎわっていました。山谷でも多くの人が働いていました。年配の方々は映画をよく知っています。当時、娯楽といえば映画くらいしかなかったから、よくご覧になっていたんですね。この店をオープンするまで1年かかりましたが、両親が食堂をやっていた場所の隣に店を持てることになりました。これもご縁ですね」と話す。

 多田さんは30歳からフリーカメラマンとしての仕事をしている。20年ほど前は、山谷の玉姫公園で山谷の男のポートレートを撮っていた。その数は100人を超える。2016年には「山谷 ヤマの男」(筑摩書房)を出版。現在も忙しい中、カメラマンとしての活動も続けている。

 泪橋ホールの設立にあたっては、現在もクラウドファンディングで運営資金を募っている。すでに目標の80万円を超え、90万円近くが集まったという。