近年は芸能人作家が続々と誕生し、芥川賞を受賞した又吉直樹のように文学賞を受賞することも珍しくなくなった。だがあえて芸能界引退を選んだ後、文芸界から注目されている作家もいる。初小説で「第5回京都本大賞」(2017年度)を受賞した元アイドル、原田まりる(34)もその一人だ。最新小説「ぴぷる」では、人間と人工知能(AI)が結婚できるようになった近未来を舞台に描き、話題を集めている。そんな原田を直撃し作家としての覚悟に迫った。

 ――AIと結婚できる新法が施行された日本が舞台。31歳のサラリーマンが、性交渉機能搭載の美少女AIを購入、彼女を「ぴぷる」と名付けて結婚する奇想天外な物語

 原田:AIが世の中に浸透していったら、今後どうなるのか。これは倫理学や哲学の分野でも語られている。少し前に、「中国で人型の汎用AIを開発中」というニュースが報じられました。好きなようにカスタマイズできるようになったら、今まで手が届かなかった自分の好きな人とソックリに作ったりする人が出てくるんじゃないかなと思って。AIが人間社会に組み込まれたという設定で、2036年を舞台に書きました。

 ――作品はAIを題材にしながら生身の人間関係も色濃く感じる

 原田:テクノロジーが発達していくと人間の意識の遅れが後々、問題になってくると思う。パワハラ、セクハラの法整備が整っても、「これもパワハラになるの?」と感覚的にしっくりきていない人もいる。テクノロジーで便利になる速度に、気持ちや意識が追いつけないんじゃないかと思って。その時に人はどう思うんだろうと考えました。

 ――もともとはレースクイーンの頂点に立ち、芸能界では女性アイドル、男装アイドルなどさまざまな活動をしてきた

 原田:アイドルグループに入りたいというよりも、文化的な方に行きたい気持ちを持っていて、長い長い航路を進んできた(笑い)。当時はアイドルという役割に入り込んで全力でやっちゃうから、本当の自分との乖離(かいり)が起きてましたね。会う人全員に「すごいつらそうだ」と言われましたから(笑い)。アイドルに向いてないと思いながら始めて、やっぱりアイドルに向いてないと悟って辞めた。作家の仕事はすごく楽しいですね。

 ――当時から執筆を

 原田:アイドル時代から賞に応募してましたけど、最終まで残らず。でも、SNSで執筆したものをアップしたりしていて、それを見て声を掛けていただいたのが本を出すきっかけになりました。

 ――最近は芸能人作家が増えた。タレントをやりながら作家としても活動した方が、メリットもあるのでは

 原田:0か100か、みたいなところが自分にはあって。タレント本みたいになるのが嫌で…。自分がやりたいこと、やるべきことを優先した方がいいと思った。だから芸能界を辞めました。

 ――結果として2016年刊行の初小説「ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。」は、芥川賞作家の綿矢りささんらの作品を抑え、「第5回京都本大賞」を受賞

 原田:コツコツ頑張ってきたからかな、とは思いますね。私がアイドルだったことを知らない編集者さんなどとお仕事で会う人が増えました。受賞まで連載のオファーをされても、「ちなみに自分で書いているんですか?」と聞かれることもあって。「一生、その媒体とは仕事をしない!」と心に決めたこともあった(笑い)。でも、賞を取ってからは“元アイドル”という見方をされることはないですね。今はもう、アイドルだったことを経歴にも書かれないぐらいです。

 ――作家としての生活を

 原田:今は8個くらいの仕事を同時にしています。小説だけじゃなく、漫画や映像化の原作なども。新しいことへの挑戦はまだ新人ですし、けっこう大変な山だなと感じてます。

☆はらだ・まりる=1985年2月12日生まれ。京都府出身。大学在学中に芸能活動を始め、レースクイーン・オブ・ザ・イヤー2005グランプリに輝く。08年にアイドルユニット「中野風女シスターズ」に加入。09年には男装アイドルユニット「風男塾」にも加わり、13年に卒業。14年に自伝的哲学書「私の体を鞭打つ言葉」を刊行。本記事本文に記載の小説2作のほか「まいにち哲学」「日々の悩みが消える哲学手帳」「アラフォーリーマンのシンデレラ転生」などの著作がある。