米ハリウッドで24日(日本時間25日)に各賞が発表された映画界最大の祭典「第91回アカデミー賞」で、外国語映画賞にノミネートの「万引き家族」(是枝裕和監督)、長編アニメ映画賞にノミネートされた「未来のミライ」(細田守監督)の両日本作品はともに受賞を逃した。とりわけ「万引き家族」は昨年の「第71回カンヌ国際映画祭」で最高賞パルムドール、24日に授賞式が行われたばかりの「第28回東京スポーツ映画大賞」で作品賞に輝いており、オスカー受賞が期待されていたが――。

 日本でも大ヒットした「ボヘミアン・ラプソディ」が主演男優賞(ラミ・マレック)など最多4冠に輝き、歌手レディー・ガガが「アリー スター誕生」で歌曲賞を受賞したアカデミー賞。日本中の期待を背負った是枝監督は東スポ映画大賞授賞式を欠席して現地で発表に臨んだが、「万引き家族」の名前は呼ばれなかった。

 外国語映画賞を受賞した「ROMA ローマ」の前評判が高かったとはいえ、「万引き家族」もカンヌ国際映画祭を筆頭に、22日に授賞式が行われたフランスのアカデミー賞にあたるセザール賞でも最優秀外国映画賞に選ばれており、大きな期待が掛けられていた。

 映画界で「世界3大映画祭」と言われているのが、カンヌとベネチア、ベルリンの各国際映画祭。中でも「カンヌが世界最高峰」と言う映画関係者が多い。そのカンヌで最高賞のパルムドールに輝いたとなると、「その年度の最高の映画」となってもおかしくはないはずだった。

 いったいなぜ受賞を逃してしまったのか? 映画関係者は「カンヌ国際映画祭とアカデミー賞では、賞の選考の過程が違う。それが結構大きい」と指摘する。

 カンヌ国際映画祭では、ごく少数の人間が審査員を務めている。「審査員は、映画監督とか俳優、プロデューサーなんかが務めるけど、人数は10人足らず。みんな意見は言うけど、これだけ少ないと1人の意見が強くなってしまう。もちろんみんな、真剣に映画の審査はしていますけどね」(同関係者)

 端的な例は、北野武監督の「菊次郎の夏」(1999年)がパルムドールを逃したこと。24日の東スポ映画大賞の授賞式で、審査委員長のビートたけしは「オレもパルムドールを取ったと思ったのに、そんときの審査委員長が『ザ・フライ』、“ハエ男”を撮ったデヴィッド・クローネンバーグ監督で、そいつが落としやがって、非常に腹が立ってる。まあ、それは冗談だけど」と話していた。

 一方、アカデミー賞の審査は違う。前出の映画関係者は「その数は6000~7000人くらいと言われる。こうなると1人の意見は反映されにくいけど、政治の選挙と同じで世論に流されやすくなる。それにカンヌ国際映画祭の約9か月後だから、意外と『パルムドールとは違う映画を選びたい』という風潮になりやすい。『万引き家族』が外国語映画賞の受賞を逃したのは、そのためでは?」と語る。

 確かに2010年代を見ても、パルムドールと外国語映画賞をダブル受賞したのは「愛、アムール」の1作品だけと、その数は決して多くはない。

 09年には「おくりびと」が外国語映画賞を受賞したが、「万引き家族」とは違ってパルムドールのような大きな看板はなかった。「それが良い方向に働いたとも言われている。変な色が付いておらず、良い作品をアカデミーが見いだしたということにもなるから」(同)。当時、滝田洋二郎監督も「奇跡の大逆転」と口にしていた。

 そうした中、今後、アカデミー賞を受賞する日本映画はあるのだろうか?

「やはり有力候補として名前が挙がるのは海外で実績抜群の北野武監督と是枝監督の2人であることには変わりがない。東スポ映画大賞で話していた北野監督の次回作が受賞なんてことになれば、日本中が元気になりますよ」と別の映画関係者。

 今年は涙をのんだ日本映画界だが、希望の光は見えている。