福岡県福岡市のタクシー業界で「“ブルゾンちえみ”に気をつけろ!」という合言葉が生まれているという。人気タレントのブルゾンちえみ(28)に似た女による無賃乗車事件が続発。本名も連絡先も告げたまま、支払いを拒み続ける常習犯の可能性があるという。被害額は「35億」には程遠いが、少額でもドライバーは事実上の泣き寝入りを強いられている。運転手仲間は「警察は動かない。なんとかしてほしい」と訴えた。

 一般社団法人「福岡市タクシー協会」が加盟会員に配布した「乗り逃げ事案の発生・手配について」(9月13日付)の文書を本紙は入手した。

「同一人物と思われる女性が連続してタクシーの乗り逃げ事案を行っていることから、今後も連続して発生する可能性が高いため、乗務員に注意喚起」とある。無賃乗車の常習犯のようだ。

 この“手配書”によれば、女は9月4日午後9時45分ごろ、博多区中洲から乗車して「松島4丁目まで」と告げた。中洲からは10~15分の距離だ。目的の自宅アパートまで着くと「お金がないので家から持ってきます」と身分証(大阪市発行の住基カード)を示し、名前・住所・携帯電話番号を告げ「価値のないバッグ」を車内に置いたまま降車して自室に入った。

 だが、待てども女が出てこないため、乗務員は室内に向けて声をかけたり、ケータイに電話したりしたが応答はなかったという。距離からして被害金額は数千円だろう。乗務員の会社では、半年前にも同一人物と思われる女から同じ被害を受けている。

 頼みの警察にも相談したが「女性が乗務員に実際の住所を告げていることから、直ちに詐欺事件として取り扱うのは難しい」と判断されたという。“手配書”には女性の本名、住所、連絡先のほか、女の特徴として「ブルゾンちえみを崩した感じの女性」と乗務員の主観も記載された。本物のブルゾンにとっては甚だ迷惑な話だが、これが出回ったことで、福岡市内では「“ブルゾンちえみ”に気をつけろ」とドライバーが警戒する騒動になっているのだ。

 市内のベテランドライバーAさんは「仲間に『俺もやられた』という運転手がおるとです。偽ブルゾンちえみは常習犯ですよ。仲間が言うには『渡辺直美ほどではないけど、小太りの体形』だそうです」と話す。

 ドライバー心理をうまく突いた巧妙な“犯罪”だとも。「もらえなかったお金は誰も立て替えてくれないし、自分で取りに行く必要がある。無賃乗車も、強盗に遭っても、会社は補填してくれません」(Aさん)

 事実上、ドライバーの泣き寝入りが確定する。

「数千円の被害なら関わり合いになりたくない。警察に駆け込んでも、調書を作るのに何時間もかかる。後日そのお客にもらいに行っても不在なら無駄足。営業する時間が削られるのであれば、数千円なら泣き寝入りするんです」とAさん。

 この事情を分かったうえで乗り逃げをしているならば悪質だ。しかも、素性を明かせば詐欺罪に問われない“法の盲点”までフル活用している。

「警察は民事不介入ということでしょうけど、この手口が広まってしまったら、タクシードライバーはご飯が食べられません」とAさんは嘆く。

 協会は本紙に「ブルゾンちえみ似の女性の乗り逃げがあった」「払わず逃げているのだから許されない」と認めたうえで、乗り逃げは偽名や偽の住所を伝えることが多く、今回のケースは珍しいと明かした。逃げ得を決めこもうとする偽ブルゾンちえみに、福岡県警は重い腰を上げるのだろうか。