トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が10日、シンガポールに到着した。12日に南部セントーサ島のホテルで、史上初の米朝首脳会談に臨む。金正恩氏は10日、シンガポールのリー・シェンロン首相と会い、開催国としての支援に謝意を表明した。米朝当局者は首脳会談に向けて最終調整を続けており、両国がトップ会談で北朝鮮の非核化に道筋を付けられるかが最大の焦点だ。その裏で、すでに北朝鮮国内では米国的な商品が市場に出回っていた。これまでかたくなに排除してきた米国文化を、北朝鮮は民間レベルで解禁した模様だ。

 会談は北朝鮮の非核化や60年以上休戦状態にある朝鮮戦争(1950~53年)の終結が主な議題になる。歴史的会談は第2次世界大戦後の北東アジアの秩序を大きく転換させる可能性を持つ。

 会談は12日午前9時(日本時間同10時)ごろに開始予定。米国はトランプ氏の1期目の任期が終わる2021年1月までの完全非核化実現を求め、核放棄の具体的な日程を引き出したい考えだ。北朝鮮は非核化の段階ごとに「体制の安全」を保証する見返り措置を受けたい思惑で、交渉は難航が見込まれる。

 トランプ氏は朝鮮戦争の終結合意を検討していると述べており、米側が満足できる非核化プロセスで合意できれば、両首脳がシンガポールで終戦を宣言する可能性もある。トランプ氏は金正恩氏の対応に満足できなければ席を立つとも話しており、協議の行方は見通せない。

 一方、北朝鮮の度重なる核実験やミサイル発射で冷え込んだ中朝関係は、3月下旬と5月上旬の中朝首脳会談で一気に好転。平壌は今、中国人観光客でにぎわっている。そんななか「北朝鮮へ先日行ってきた中国の友達に、土産でもらったお菓子に驚いた」とは、中国東北部に住む日本人駐在員。

 その菓子の外袋に描かれたクマとブタが、ディズニーの人気キャラクター「くまのプーさん」とその仲間「ピグレット」にソックリだったからだ。「北朝鮮品でここまで露骨なパクリは今まで見たことない。友達いわく、この商品は少なくとも昨年までは店頭に並んでなかったそうだ」と駐在員。

 商品名はハングルで「バナナあめ」と書かれ、「封を開けるとキャラメルのような包みが2種類入ってて、うち1種類の包み紙に描かれたクマとブタはプーさんと似ても似つかない、北朝鮮のオリジナルキャラだった」という。気になる味は「森永製菓のハイチュウとソックリ。ただ形は包みによって大小不揃い」。

 民間の北朝鮮研究者に見せたところ「故金正日総書記が2010年12月に現地指導(視察)した平壌のソンフン食料工場が製造したもの。金総書記は当時、コンピューター数値制御(CNC)を導入したラインを指導している。CNCといえば金正恩・朝鮮労働党委員長の代名詞」だという。つまり製造元は金ファミリーの息がかかった優良企業だった。

 正恩氏のキャラもの好きは知る人ぞ知る話。朝鮮中央テレビは12年7月、正恩氏肝いりの「モランボン楽団公演」でプーさんやミッキーマウスそっくりな着ぐるみを登場させている。当時も今ももちろん著作権は完全無視だが、この“プーさんキャンディー”には同研究者も驚きを隠せない。

「北朝鮮のパチモノといえば、サンリオの『ハローキティ』や『けろけろけろっぴ』といった日本のキャラクターが、靴下やカバンでパクられているのは確認されている。また手工芸品で質の悪いミッキーマウスがデザインされたことも。ただ、大量生産品であからさまに米国のキャラがパクられるのは初めてではないか」

 正恩氏が米国文化に強い興味を示しているのは間違いなさそう。歴史的な米朝会談のプラス材料になればいいが…。