日本古来の妖怪に「一本だたら」というものがいる。大きな一つ目と一本だけの足が特徴で、山にすみ、時には人を襲うこともあるという妖怪だ。主に和歌山県から奈良県の山中に出没するといわれ、奈良県の伯母ヶ峰では12月20日には山に入らないようにと入山を戒める風習も残っていた。

 また、和歌山県の一地域では「かしゃんぼ」とも呼ばれており、山に住む河童の一種とも、河童が姿を変えたものともされていた。西牟婁郡では「ゴーライ」という河童が山に入ると「かしゃんぼ」という名前の山童(やまわろ)の一種になるという。このかしゃんぼの外見が一本だたらとほぼ同じものなので、一般には山童よりも一本だたらと同種のものとして見られている。

 ここまでならば普通の妖怪の伝説だが、なんと、この妖怪が実際に出現した!?として一躍注目を集める事件が起きた。

 2004年春、和歌山県白浜町の富田で田植え前だった田んぼの土の上に、明らかに四足歩行をする動物のものや人間のものとは違う異様な足跡がついていたのだ。

 足跡の大きさは縦横15センチ程度で、若干縦のほうが5センチほど長いものがある。歩幅は約60センチ程度、左右にややズレが生じているがほぼ一直線に続いているという特徴的なものになっている。

 人間が歩いたものであれば左右2筋の足跡が残るはずである。また四足歩行の生物の場合も同様であるし、生物によっては前足と後足で足型が違うケースもあるので、全く同じ足跡が一直線に続くことはありえない。類似の足跡をつける動物としてキツネの可能性も考えられたが、足のサイズも歩幅も大きすぎる。

 この足跡は2度にわたって確認され、紀伊民報には地元の猟友会に所属する人物が「かしゃんぼの仕業とでも言うしかない」と証言していた。なお、この人物は父親から聞いた話として、「(かしゃんぼは)昔、山仕事をしているとよくいたずらしに来る」と述べていた。

 また、人をさらうなどの話がないため、決して悪い妖怪ではないとも答えている。

 果たして、2004年の足跡事件の主は本当にかしゃんぼだったのだろうか。アニメ、ゲームで大ブームになっている「妖怪ウォッチ」で妖怪が再び脚光を浴び始めている今ならば、足跡だけでなく、姿も我々の前に現してくれるかもしれない。