オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第92回は「実況中継男」だ。

世にも不思議な「実況中継男」とは、筆者が目撃した妖怪というか“奇人”である。昭和末期に総武線に出没し、都市伝説誕生の場に立ち会えた貴重な経験となった。当時は変わった人物があふれており、ある意味良い時代でもあった。

 実況中継男は、市川駅から乗り込んで秋葉原駅ぐらいまで乗っており、ずっと実況中継をする。誰もその内容を聞いていないが、たまたま同じ車両に乗車していた筆者のみ興奮しながら、チェックしていた。

「さあ、第〇回紅白歌合戦の始まりです。白組キャプテン・北島三郎を先頭に入ってまいりました」

 当時はラジオ番組でもドッキリ企画みたいなことを行っており、ひょっとしたら電車の中で実況生中継をしたらどうなるだろうという番組企画があったのかもしれない。しかし、筆者や乗客はそんな番組があったことは知らないでいたため、“奇人”として認定し、その後、妖怪扱いされるようになったのかもしれない。

 そもそも妖怪の誕生には、実際の人間が深く関与している。実際の人間も考えられない奇行を取ったのであれば、それが伝言ゲームのように人から人に伝わり、いつしか妖怪として広まってしまうことがあるのだ。