オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第72回は「納屋の婆(ババア)」だ。

とある村の各家庭の納屋に潜んでいるという。この村では納屋に入る前に「入りますよ」「開けますよ」とあらかじめ声を掛けなければならない。このように特定のルールが決められている部分は、妖怪伝承に多いパターンである。

 声を掛けて入ると「納屋の婆」は消えてしまう。うっかり声を掛けずに入ってしまうと、出くわしてしまうので危険だ。黄色い歯をむき出しにして人間に襲いかかる。襲われた人間はそのまま姿を消すことになる。ひょっとすると、ババアの世界に引きずり込まれるのかもしれない。

 したがって、この集落では、人が行方不明になると「納屋の婆にさらわれた!」といわれた。この設定の部分は、隠れ神系列の妖怪の性質を踏襲している可能性はあり得る。

 このババアは、伝承妖怪における「棚婆(たなばば)」を連想させる。この妖怪は蚕棚(かいこだな=カイコを飼っている屋根裏)に住んでいる妖怪である。先祖の霊であることが多いといわれている。

 霊能者のあーりんさんがこれに似た老婆の霊を目撃した。亡くなった老婆が、今もその部屋に座り続けているらしく、改築により部屋が模様替えされても、以前と同じ場所にずっと座っているらしい。ある意味、先祖霊と思えてしまう。

【山口敏太郎】作家、ライター。著書「日本怪忌行」「モンスター・幻獣大百科」など200冊あまり。テレビ出演「怪談グランプリ」「ビートたけしの超常現象Xファイル」「緊急検証シリーズ」など。ユーチューブでオカルト番組「アトラスラジオ」放送中。