オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第67回は「およびさん」だ。

 山の中で作業をやっていると突如、自分の名前を呼ぶ者がいる。あたりを見渡しても誰もいない。気を取り直してもう一回作業に取り掛かるが、「おーい○○君」と声がまたしても聞こえる。そこでうっかり返事をしようものなら異界に連れて行かれてしまう…。

 これは妖怪「およびさん」の仕業である。このように山中で声をかけてくる妖怪は多い。もちろん人間が呼んでいる場合もある。それでは人間と妖怪の違いをどこで聞き分けるのであろうか?

 実を言うと妖怪は“反復言葉”を言えないという特徴がある。つまり「○○君、○○君」と2回反復して言えないのだ。これが異界の住民の証拠である。「○○君」と一言だけ呼ばれた時は、妖怪が呼んでいると判断して間違いない。

 似た妖怪に「一声呼び」がいる。これも山中で一声だけ呼びかけてくる。中央アルプスの方では、「カベッケ」という山中のカッパが話しかけてくるという。

 これらの山の妖怪に対する対策は、とにかく徹底的に無視を決め込むことである。返事さえしなければ、悪さをされることはない。また、縄張りがあるらしく、ある一定のエリアを越えると聞こえなくなると言われている。どちらにしろこの手の山の妖怪は、日ごろ人間が無意識で聞いている生活音が聞こえなくなった山中での幻聴だと推測される。物理的に聞こえる音ではなく、心理的要因つまり心の中の音である。

【山口敏太郎】作家、ライター。著書「日本怪忌行」「モンスター・幻獣大百科」など200冊あまり。テレビ出演「怪談グランプリ」「ビートたけしの超常現象Xファイル」「緊急検証シリーズ」など。ユーチューブでオカルト番組「アトラスラジオ」放送中。