オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第65回は「ちゅうそん」だ。

 九州某県の学校の図書館に出没した妖怪だ。その図書館には一人で行ってはいけないという。なぜなら一人で行くと「ちゅうそん」にさらわれるからだ。さらわれることを「ちゅうそんに引かれる」と表現するそうだ。

 ちゅうそんは1メートルくらいある巨大なネズミの妖怪だが、姿を見た者はあまりいない。さらう時には牙などで人間の衣服にかみついて引きずっていくとみられる。この学校では毎年、行方不明者が出ており、「都会に憧れて家出したのだろう」とうわさされているが、実はちゅうそんにさらわれた者も何人かいると伝えられている。

 漫画家の箱ミネコ氏はこの妖怪とニアミスしたことがあるという。彼女がその学校に通っていた当時、一人で図書館に行ったところ、学校の先生が血相を変えて飛んできて、「大丈夫かミネコ! ちゅうそんに引かれたかと思ったぞ」と騒いだそうだ。なお、箱ミネコ氏のお兄さんも同学校卒で、巨大ネズミを目撃したと語っている。

 このネズミ妖怪はその古い学校に何十年もすみついており、その名前はネズミの鳴き声から来ているのかと思いきや、漢字では「中村」と書く。これを音読みして呼んでいるのだ。なぜ漢字で中村と書くのか、箱ミネコ氏の時代にはもう理由は分からなくなっていたという。

 中村という人物がかつて存在しており、妖怪に引かれてしまったのだろうか。あるいは中村という人物が何らかの理由でネズミ化したのだろうか。ひょっとすると在籍していた中村という名前の先生がネズミに似ていたため、この妖怪が生まれたのかもしれない。

【山口敏太郎】作家、ライター。著書「日本怪忌行」「モンスター・幻獣大百科」など200冊あまり。テレビ出演「怪談グランプリ」「ビートたけしの超常現象Xファイル」「緊急検証シリーズ」など。ユーチューブでオカルト番組「アトラスラジオ」放送中。