【山口敏太郎の現代妖怪図鑑57】死ねないつらさ「ふうらい様」

2021年09月15日 11時30分

ふうらい様

 オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第57回は「ふうらい様」だ。

 アイヌの集落で暮らしていた青年がヒグマに自分の母親を殺されてしまった。それまで温厚だった青年は復讐の鬼となり、山に入った。数日後、ヒグマの皮を片手に集落に青年が戻ってきた。見事、敵討ちを成し遂げたのだ。

 だが、ヒグマを神様とみなす集落の長老たちは、それを許さなかった。青年を山中の木にくくりつけ、いけにえとして放置した。すると巨大なヒグマが現れて、青年にこう言った。

「お前には死ぬことよりも、もっとつらい運命を与えてやる」

 そして、青年を縛っていた縄を口で解いた。集落に帰った青年だったが、長老たちは彼を批判した。青年は集落を出て、さすらいの生活を送った。そのうち気がついたことがあった。

 まったく年を取らないのだ。呪いにより、青年は死ぬことなく、永遠に時の流れをさまよう運命となったのだ。

 以降、何十年間に一回、故郷の集落を訪れては子供たちにさまざまな技術を教えるようになった。

 長い年月の間に、自分の名前を忘れてしまったらしく、名前を聞かれても「ふうらいぼうですから」としか言わなくなった。それで集落では「ふうらい様」と呼ばれている。

 数十年間に一回ふうらい様を迎える時は、ごちそうや何やらで大変なにぎわいとなったという。

 この妖怪の存在を私、山口敏太郎に教えてくれた人は、子供時代に山で遭難した時、ヒグマのような毛むくじゃらの男に助けられたことがある。温厚そうな男は泣きじゃくる子供たちを集落まで案内してくれた。話を聞いた両親や祖母は「ふうらい様が助けてくれたのだ」として大騒ぎし、公民館でごちそうの準備が行われた。だが、彼はやって来なかった。

 それにしても、死ねないということは、つらいことである。不死というテーマは伝承や小説で悲劇として描かれる。古今東西問わず、死ねないというのは最大の呪いなのであろう。

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