怪しい外国人の仕業か? 空を飛ぶ猫「翼猫」が日本で野生化していた?

 翼猫とは背中に翼の生えた猫のことで、19世紀から世界各地でその姿が目撃されたり、または捕獲されたりしている未確認生物である。別名を「ウイングキャット」「フライングキャット」「こうもり猫」「空飛び猫」「天使猫」などと呼ばれる。

 特に「天使猫」と呼んでかわいがっている中国では、幸運を呼ぶ縁起物であり“吉兆の証し”と言われており、金持ちの間で高い値段で売買されている。そのせいか、近年では中国各地で「天使猫」が確認されている。中には金目的で、人工的に作られている個体がいるかもしれない。
 未確認生物には珍しく大量な写真や資料が残されており、実際に飼っていたと言われるケースも多い。幾つか有名な翼猫に関する事件を紹介してみよう。

 1959年、米国・ウェストバージニア州のパインズヴィルの山中で少年によって翼のある猫が捕獲された。この翼猫は「トーマス」とネーミングされ、体長75センチ、翼の長さは約23センチであった。問題の翼は中に軟骨のようなものがあり、体内の骨が隆起したか飛び出たものかと推測される。

 2004年にはロシア中央部のクルスクにて翼を持つ猫が発見されたが、迷信深い村人により、“悪魔の使い”として認定され、袋に詰められ池に遺棄され水死した。何もここまでやらなくてもよいのに、というレベルの非道である。

 実は日本でも何度か翼猫が目撃されている。最も古い翼猫の目撃情報は1876(明治9)年に「東京日日新聞」に掲載された記事であるとされている。記事によると、来日した英国人の興行師であるイカステキ氏が東京の町民に向けて東京新宿大宗寺(新宿2丁目)で、翼猫を見世物としてお金を取って紹介していたが、興行が終わった後、イカステキ氏が誤って翼猫を町中に放ってしまい行方不明になってしまったという。

 イカステキ氏という興行師の名前、不注意から翼猫を逃がしてしまうというマヌケさから、実に怪しい雰囲気が漂う事件であるが、そもそも新宿大宗寺は閻魔さまがまつられ、うそつきを戒めるお寺である。そんなお寺でイカステキ氏がインチキ興行をやっていたとしたら由々しき問題である。

 この一件から日本全国で翼猫の目撃例が報告されるようになってしまった。この新宿2丁目から逃走した翼猫はどうなったのであろうか。東京で翼猫が行方不明になった8年後の1884(明治17)年には、宮城県桃生郡河北町で虎の声でほえる翼の生えた猫が数人の男性の手により捕獲されたという記事が「絵入朝野新聞(えいりちょうやしんぶん)」に掲載されている。

 イカステキ氏が逃がしてしまった翼猫と同一個体かどうかは不明であるが、翼の生えた猫が空を飛び、遠く宮城県まで流れ着き、野生化して虎のような雄叫びを上げるようになってしまった可能性は考えられるだろう。新宿2丁目から宮城県という流れ、まるで容姿の衰えたニューハーフが、泣く泣く実家に逃げ帰った人生劇場のようにも思える。

 この翼猫の正体であるが、翼猫は背中に腫瘍や毛玉ができてしまったものや、飛び出した軟骨に肉がつき偶然翼に見えてしまっている奇形説、イカステキ氏のような興行師が捕まえた猫にむりやり翼を縫い付けた人造説がある。

 19世紀後半の英国ではサーカスで翼猫が見世物のひとつとして絶大な人気を博しており、罪のない猫たちが生きた状態で翼を縫い付けられ、酷使され衰弱死したといった悲しい話も残っているのだ。

 近年では動物愛護団体からの圧力からか翼猫の捏造は行われなくなった。実は筆者こと山口敏太郎は以前、某所で翼猫のミイラなる怪しいブツを発見している。恐らく猫の死体に翼を縫い付けミイラ化したものと推測したが、値段が21万円となかなかに高かった。見た目も不気味なので、購入は見送ったのだが、翼猫の正体を明かす鍵となる貴重な資料となっていた可能性もあるので、今となっては後悔している。