未確認生物の中には、ある種の妖怪のような形で伝承が伝わっているものも存在している。例えば「クラーケン」や「シーサーペント」はノルウェーなど北欧の人々に昔から伝わる巨大な海の生物であった。

 グリーンランドや北欧の海には、他にも巨大な生物が昔から潜んでいると考えられていたらしい。今回紹介する未確認生物「ハフグファ」もその一つだ。

 ハフグファが文献に登場するのは古く、1600年代に発行されたハンス・エゲデ氏の「グリーンランド博物誌」になる。こちらでは漁師たちの間に古くから伝わる巨大生物として、体の重さが数千キロにも及ぶ魚で、姿は大きすぎて正確なところは分からないが、目撃者によれば「島のようだった」とされている。

 凶暴で船乗りたちを襲うそうだが、近寄ってきた時に「ハフグファ!」と名前を呼べば、怪獣は引き下がると伝えられている。名前を言い当てられると引き下がるあたり、日本の妖怪「見越し入道」などのようで興味深い。やはり「名前を言い当てる」ことに何らかの呪術的な要素があったのではないだろうか。

 エゲデ氏はその後も伝聞を基にハフグファについて記しているが、なんと1734年には自身でもハフグファの姿を目撃している。グリーンランド南西ゴトホープ沖で「船の3〜4倍はあろうかという巨大な生物」の姿を確認したというのだ。

 その生物は鼻先がくちばしのように長くとがっており、大きなヒレを持ち下半身はヘビのようだったという。皮膚はシワが寄ってごつごつしており、全体に貝殻細工がちりばめられたようだったそうだ。

 その後もたびたび目撃されていたようだが、近代になってこの伝説的な海の未確認生物に調査のメスが入る。

 1963年、米海軍海洋学調査部がエゲデ氏の著作を基にグリーンランド周辺海域の調査を行った。その結果、ハフグファについては複数のザトウクジラが群れている様子を一匹の生物であると誤認した可能性と、また海中から火山島が出現した様子を巨大な生物の出現と誤認した可能性が出てきたとの結論に至ったのである。

 確かに全身にちりばめられた貝殻細工はザトウクジラ等の体表を覆うフジツボを表現したものであるように思われる。またハフグファは潮を吹き、海面にゆらめく芳香を放つともされている。これもクジラの潮吹きや龍涎香(りゅうぜんこう=クジラの腸内にできる結石で香料の一種)から考えられたものではないかとみられている。