中国の伝説に、空をおおうほどの比類なき大きさを誇る巨大な鳥が登場する。その名を「鵬」、ないしは「大鵬」というもので「西遊記」や「封神演義」などでも描写されている。なお、西遊記では一飛びで9万里を飛ぶほどの飛行能力を有しているとされる。

 この大鵬は北の海にすむ「鯤(こん)」と呼ばれる巨大魚がさらに年を経て姿を変えたものとされており、蛇や鯉が竜になるのと同じように考えられていたようだ。

 また、竜が嵐や雨、大水の神格化とされているように、大鵬も大陸の季節風であるモンスーンを神格化した存在ではないかとされている。多くの古典作品に登場していたこともあり、日本でもなじみ深い存在であったようで、力士のしこ名である「大鵬」もこの妖怪にちなんでいる。

 そんな大鵬が実際に仕留められた!?という事件が明治時代に報告されていた。

 明治12年のこと、愛知県碧海郡堤村(現在の安城市三河安城)で山の木々を揺らすほど〝ごうごう〟と大きな鳴き声を上げる生物が出現。人々は恐れていたが、猪取武平なる腕利きの猟師が仕留めてやろうと10日間山に張り込んだ。すると、2羽の恐ろしく巨大な鳥が現れたため、彼はすかさず鳥に向かって猟銃を発砲した。

 しかし、鳥が当初は平然としていたため立て続けに5、6発撃ち込んだところ、ようやく2羽の鳥は逃げ出した。1羽は山を越えて遠くへ飛び去っていってしまったが、もう1羽は山裾に落ちていった。

 この鳥を捕まえ、大きさを測ってみたところ、全長8尺(約2・4メートル)、翼は片方のみでも9尺5寸(約2・9メートル)と相当な大きさがあり、「伝説の大鵬ではないか」と「安都満新聞」が報じている。

 さて、この鳥の正体は何だったのだろうか。この「UMA図鑑」では過去に北米大陸を中心に目撃されている巨大鳥「サンダーバード」やニューギニアの「ローペン」等の翼竜に似た生物について紹介している。これら2つのUMAはそれぞれ絶滅した古代生物とみられているが、このような生物が当時の日本にはまだ生息していたのだろうか。

 一方で「倍数体」の鳥だったのではないかとする説も存在している。倍数体は卵に圧力や熱など刺激が加わることで引き起こされる一種の奇形で魚や爬虫類に多く、鳥類で発生する確率は低いのだが、もしかするとこの倍数体だった可能性もないとはいえない。

 現実的な見方をすると、10日間も山にこもっていたので、猟師が疲労から幻覚を見た可能性も考えられなくはない。しかし、その後で多くの人が仕留めた大鵬を目の当たりにし、正確な大きさを測っているので一概に幻覚であったと結論付けることもできない。

 果たして、この鳥の正体は何だったのだろうか。剥製や標本が残っていなかったのが残念なところだ。