未確認生物と一口に言っても、その概念は広く、既存の生物学の体系からは大きくはずれたような生態を持つもの、古くから伝わる妖怪や幻獣のようなもの、不思議な生態を持つものなどが多くいる。しかし、中には常識では考えられないような能力を持ちながら学名を持つものも存在する。

 今回紹介する「スクォンク」という未確認生物は個体が確認されておらず、標本なども残っていないが「Lacrimacorpus dissolvens」という学名を持つ。これはラテン語で「溶けて涙になる体」という意味を持つ。では、その名前がついた経緯を説明しよう。

 スクォンクの記述がある文献は1910年にウィリアム・トーマス・コックスが刊行した「木こりの森の恐ろしい動物たち、砂漠と山の獣たち」という本である。この本はいわゆる“フィアサムクリッター”、つまりアメリカというまだ開拓されていない、自然の多い大陸における妖怪や不思議な生物、ほら話などを中心に書かれた内容になっている。

 そんなフィアサムクリッターの一種がスクォンクで、アメリカのペンシルベニア州の森やウィスコンシン州の山間部、砂漠地帯に生息していると言われている哺乳類型のモンスターだ。

 外見は非常に醜いとの評判だ。体中がイボとアザとシワに覆われ、顔はイノシシをグロテスクにしたような形状だと伝わっている。凶暴そうな生物とも想像できる容姿だが、実際には臆病で憂いや悲しみをまとって見えるとも言われている。

 活動する時間帯は明け方や夕方のような薄明るい時間帯。自身の醜悪さを自覚し、他の生物に自分の姿を見られることを嫌っているため、このような時間帯に動くとの逸話もあるほどだ。

 さらにスクォンクは醜さを自覚し、悲しむあまり、常に涙を流している動物だとも言われているのだ。臆病で自虐的な生物とはなんとも悲しい限りである。スクォンクが通った場所には点々と涙の跡が残るため、猟師などは涙の跡をたどってスクォンクの居場所を見つけるらしい。

 しかし、スクォンクの個体は前述のように残されていない。それは驚いたり恐怖を感じると泣きすぎて自身の体を溶かしてしまうからである。

 スクォンクの声まねをして捕獲して袋に入れて持ち帰ったという証言も残っているのだが、袋を開けると中には水と泡しか入っていなかったという。これが「溶けて涙になる体」と名付けられたゆえんである。

 実際には自然界で耳にした奇妙な音の正体が分からず、そのすすり泣くような音の原因を妖怪のような生物として当てはめたもので、それが面白おかしく広まったのではないかという説もある。