この怪物はUMAというよりも、怪人という表現が最も適している。姿形は人間に近いのだが、跳躍能力や炎を噴霧する能力が人とは思えないのだ。

「スプリングヒールジャック」——かなり攻撃性の強い怪人である。

 何だか、名前が新春のデパートセールみたいなので、一時、筆者は「ジャンピングヒールジャック」というロックっぽい名前をはやらせようとしたのだが、あまり広がらなかった。

 この怪人の特徴は背が高く、体つきは痩せており、とがった耳、火の玉のような目玉を持っている。黒いマントを身に着け、警官のようなヘルメット、タイトフィットのズボンで身体を覆っていた。

 興味深いのは、鋭い金属爪(メタルクロウ)を指先に装着していたという点だ。「ヘルメット」「金属の爪」「攻撃性が強い」という性質はインドを騒然とさせた「モンキーマン」にも通じる。

 ジャックは女性に近づきその鋭い爪を使って、衣服を引き裂くのが目的であると推測されている。逃げ足は早く、異常な跳躍力を持って壁や家屋を飛び越えて姿を隠してしまうのだが、そのブーツのかかとに特殊なスプリングが仕込まれていると見られている。

 特筆すべきことは、ジャックはスムーズに英語を話すことが可能であるという情報である。

 ヤツが引き起こした当初の事件は、1837年10月に発生した「メアリー・スティーブンス事件」である。メアリーという名前の女の子がラベンダーの丘を歩いていたところ、ジャックに襲われ、着衣を切り裂かれている。

 この翌日にもジャックは出現。メアリーの自宅付近で女性の衣服を切り裂き、せせら笑いを浮かべ、9フィート(約2・7メートル)もの高い壁を飛び越えて姿を消している。

 1838年1月、ロンドン市長・サー・ジョン・コーワンはジャックの一連の犯行に関してコメントし、各地で自警団グループが結成されたが、その行動をあざ笑うかのごとく事件は続いていく。

 10代の少女が襲われた2大事件は深刻なケースであった。「ルーシー・スケール事件」と「ジェーンオールソップ事件」のことである。ロンドン・タイムズ(1838年2月22日)の報道によると、同19日の夜、ジャックは口から青と白の炎を吐きながら、赤い火の玉のような目玉を輝かせ、18歳のジェーンオールソップの自宅を襲った。彼女を自宅から強奪しようとしたのだ。

 この強奪事件は失敗に終わったが、9日後の28日、ルーシースケールと彼女の妹が、路上にてジャックに襲われた。ヤツは物陰から飛び出して、彼女の顔に青い炎を吐きかけた。一時的に視界を奪われたルーシーではあったが、大事には至らなかった。

 1845年のある日には、ジャックは大勢の人々が見守る中、橋から売春婦を投げ捨て、下水道で溺死させるという非道な行為に及んでいる。

 その後、60年近くイギリスから姿を消し、1904年にリバプールの街に再び姿を現した。

 このジャックの正体についてだが、1859年に亡くなった乱暴者の貴族ヘンリー・ウォーターフォード侯爵ではないかという説がある。ほかには、ドイツの空挺部隊との関連を疑う声もある。というのは、第二次世界大戦中、彼らが履いていたブーツのかかとの部分には、特殊なスプリングが入っており、それがジャックの跳躍力と関係あるのではないかと推測されているのだ。

 また。近年ではジャックはエイリアンそのものか、エイリアンが関与しているのではないかという説がある。

 なお、ジャックはイギリスだけではない。1880年7月にはアメリカに上陸し、ケンタッキー州で目撃談が報告されている。1939年から1945年にかけては、チェコスロバキアで「プラハのスプリングマン」という怪人の目撃が噂された。

 ジャックは現代でも暗躍している。2012年2月、スコット・マーティンとその家族はタクシーで旅行中、道を猛スピードで横切る怪人を目撃、その姿はジャックそのものであったとされている。