【224】生命を創造した男の悲劇「アンドリュー・クロスのダニ」

2017年09月22日 12時00分

科学者のアンドリュー・クロス

 9月6日、宮崎県庁で行われたマダニの注意を促す記者会見で、準備していた生きたマダニが逃げ出す騒ぎがあった。知事は謝罪し、駆除はできたとの報告はあったが、実際に死骸を確認するのは困難で、本当に全滅できたのか疑問の声が上がっている。

 

 ニュースで見ていると、まるでコントのような一幕だったが、ホラー映画やパニック映画の始まりにも似たアクシデントであり、付近の住人にとってはたまったものではないだろう。

 

 このマダニの危険性というのは笑い話ではなく、腫れやかゆみはもちろん、発熱、筋肉痛、関節痛、吐き気、嘔吐、下痢などを伴った症状が1か月近くも続き、死に至る場合もある。これはマダニが持つ重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスのせいである。日本にいるマダニがすべてこのウイルスを持っているかは現在も調査中だ。

 

 ダニ…人の目に見えないほどの大きさで布団や畳にすみつき、血液を吸って強いかゆみを持たせる生き物。大ざっぱに言って虫だが昆虫ではなく、クモなどの節足動物の仲間。イメージはけっしていいものではなく「社会のダニ」のような悪い言い回しもある。

 

 一般的なダニのイメージはこんなところだろう。しかし、ダニには意外な一面がある。それは“地上最速の生物〟だということだ。

 

 よく知られる速い動物といえばチーターで、1秒間に移動する距離は自分の体長の約16倍だ。そして、この基準で最速と言われていた生物はオーストラリアハンミョウ(昆虫)で、体長の171倍も移動する。

 

 ところが、南カリフォルニアに生息するダニの一種はこの比ではない。1秒間に、なんと自分の体長の322倍もの距離を移動するのだ。これは人間に換算すると時速2100キロにもなり、直線距離で稚内から鹿児島市まで、東京からだと西表島まで1時間で移動することになる。

 

 今年8月には広島市の動物園でチーターがマダニにかまれて死亡したが、感染で殺され、自慢の足の速さでも負け、踏んだり蹴ったりである。ダニは繁殖能力も高いため生物として脅威と言えよう。

 

 そのダニの世界にも未確認生物はいる。

 

 1784年、イングランドに生を受けた科学者のアンドリュー・クロス。彼は「神にもっとも近づいた男」「フランケンシュタイン博士のモデル」「稲妻と閃光の男」などと言われ、絵に描いたようなマッドサイエンティストとして有名であった。知的探究心が強い半面、科学の教育をきちんと受けてこなかったために学術機関からは相手にされなかった。

 

 そのアンドリュー・クロスは進化の過程をすっ飛ばして生命を創造してしまう。

 

 1836年、クロスはガラスの結晶を作ろうとして実験したが、失敗に終わった。しかし、奇妙なものが付着していたため実験を続行したら数日後(1〜2週間後といわれている)に付着物から突起が生えていたのだ。それからさらに4週間ほどたつと、その突起を持った白いものはダニの姿になって繁殖していたのだ。

 

 さしものマッドサイエンティストも「そんなことが起こるはずはない。偶然張り付いていた卵が孵化したのだろう」と考え、同じ実験を再度行うことにした。結果は成功だった。徹底した無菌状態においてもダニが生まれたのだ。再度の実験を開始してから数か月たってからのことである。

 

 アマチュアとはいえ科学者であったクロスは、最初は自分でも信じていなかったが、自らの「生命の創造」を認めざるを得なかった。クロスはこの実験の結果をロンドン電気協会に報告した。

 

 ロンドン電気協会はクロスのレポートを無下にすることなく、再現することにした。すると、そこでも同じようにダニが発生したのだ。クロスは一躍有名になるが「神への冒涜」として世間から迫害されるようになってしまう…。

 

 恐らく本人も危惧していた通り、偶然張り付いていたダニの卵によるアクシデントだったのだろうが、それが続いてしまい、「成功」となってしまった。そして「成功」によって彼は不幸になってしまった。未確認生物にまつわる悲しいドラマである。

 

【関連動画】How to properly remove a tick
https://www.youtube.com/watch?v=27McsguL2Og