米国の先住民族であるネーティブアメリカン——。独自の伝承や神話を持ち、自然や動物たちと調和した、霊的存在が肉体や物質を支配しているという考えの精霊崇拝が色濃く残った民族でもある。キリスト教とは違った精霊や動物の伝説が残されている。

 米国中西部に位置するイリノイ州は、中西部では人口が最大の州である。ニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ巨大都市のシカゴを擁し、人口だけでなく多くの人種を抱えている。いわゆる白人、黒人、ヒスパニックだけでなく、アジアやオセアニアからの移民も多い。

 ネーティブアメリカンは全体の0・3%ほどだが、もともとは多くの部族が暮らしていた。しかし、ヨーロッパ人との戦争や、彼らがもたらした伝染病によって壊滅し、イリノイ州は保留地のない州となっている。

 そもそも州の名前となっているイリノイは、ネーティブアメリカンのイリニ族から取られたもので、彼らもまたこの地域に住んでいた部族である。そのイリニ族に伝わり、ミシシッピ川一帯に伝承の残る「ピアサバード」について、今回は紹介していこう。

 英語読みをさらに日本語の発音で解釈して「ピアサ」と言われているが、ネーティブアメリカンの発音では「パイア・ソー」もしくは「ピー・ア・ソー」に近いと言われている。怪鳥、またはドラゴンのような容姿として伝わり、その奇妙な姿はミシシッピ川の高い崖に壁画として描かれている。

 ウロコに覆われた体からは4本の手足が生え、背中には大きな翼、人間のような顔の頭部には鹿のようなツノがあり、目は赤く光り、尾は体を2周するほど長く、その先端は魚の尾ビレのようになっている。人間が想像する恐ろしいものを集めたようなキメラ的なモンスターで、いかにも神話などに登場しそうである。壁画のオリジナルは破壊されてしまったが、大きさは牛くらいの絵だった。

 この壁画をヨーロッパ人の神父が発見したことから、1673年ごろに存在が広く知られるようになる。ピアサという名前は邪悪な意図が込められ、「悪霊の鳥」や「人を食らう鳥」のようなニュアンスらしい。その見た目の恐ろしさから考えても、未確認生物というよりも幻想生物のたぐいだと考えた方が妥当かもしれない。

 しかし、イリニ族の伝承の中には「村が襲撃された。ピアサを撃退しよう」と村人が戦ったような記録が残っているという。伝承として残っていくうちに尾ヒレがついて怪物のような存在になってしまったが、元は人間の生活を脅かすような、なんらかの強大な生物だった可能性がある。人間一人くらいは運べる大きさの鳥がいてもおかしくはない。

 今年は酉年であるが、不吉なことなど起きないよう願いたいものだ。