人間が人間の手で作り出す生命体「ホムンクルス」。さまざまな映画やマンガ、ゲームで題材になることも多く、たくさんの人に知られた存在であろう。

 それはただの怪物であったり、人工生命であるがゆえの苦悩が描かれたり、人間が人間の手で生命を創造することへの倫理観や、生命そのものへの議論が行われたりする。

 そんなホムンクルスもかつて作製に成功したと言われているのはご存じだろうか。

 時は16世紀。医学者で錬金術師のパラケルスス、本名テオフラストゥス・フォン・ホーエンハイムによって人工生命は誕生したと伝えられている。

 パラケルススは決して神秘主義一辺倒の人物ではなく、金属の化合物を薬品に初めて使用した人物で「医化学の祖」とも言われているのだ。また、錬金術も「金などの貴金属を作る」という大本の考えよりも、医薬品を作ることを主張した。

 このパラケルススがホムンクルスを生成させた方法は、フラスコの中に精液を入れ、40日間密閉し、腐敗させるというもの。次第に透明で人間の形をしたものが生じるとされている。

 フラスコの中には精液だけでなく、数種類のハーブと便や血液を加えるという説もある。それに毎日、人間の血液を加え、ウマの胎内と同じ温度に保った状態でさらに40週間保存していく。

 そうするとフラスコの中の人間の形をしたものは、本物の子供と同様の姿に変化していくというのだが、やはり器の大きさに左右されるのか、人間よりも小さいものだったらしい。

 ホムンクルスという言葉がラテン語で「小さい人」を指すというのも納得である。フラスコの中でしか生きていられないとも言われ、実在したとしても非常に弱い生命体であったのではないだろうか。

 しかし、ホムンクルスは生まれたばかりにもかかわらず、万物に関する知識や世界の真理を身につけており、パラケルススたち、人間の質問に対して何でも答えたとも伝わっている。

 このホムンクルスの生成に成功したのは、製法を記録しているパラケルスス以外にはいない。パラケルススにはにわかには信じがたい「悪魔使いであった」という噂が後世にも伝わり、どれが本当のことか分かっていない。

 筆者はこのホムンクルスは当時のクローン人間のような存在だったのではないかと考えている。

 キリスト教では神の領域に踏み込む実験として「禁忌」とされている。現在もキリスト教的な視点だけではなく、生命倫理の視点からも様々な問題点が議論されている。

 それまでのタブーや常識に挑戦し、新たな医学の研究をしてきたパラケルスス。ホムンクルスも倫理の聖域に挑む研究だったと感じるが、その一方でこうした姿勢が科学を発展させてきた側面もある。非常に難しい問題だ。

【動画】Как сделать гомункула (Homunculus)