「バジリスク」——アニメのタイトルになっていたり、テレビゲームのモンスターとして登場するため、名前を知っている人は多いだろう。ヨーロッパでは古くから広く知られている幻獣の類いである。

 どのような生物かというと、冠のようなトサカを持ったヘビ(一説によるとヤマカガシに近い)で、バジリスクが移動する音を聞くと、それを聞いたヘビたちは逃げ出すのだ。バジリスクという言葉はギリシャ語で「小さな王」を意味し、ヘビの王と呼ばれるのも納得の力である。

 ヘビの髪を持ち、見る者を石にする怪物、あの有名なメデューサが殺された際に飛び散った血から生まれたとも言われ、バジリスクの持つ能力は猛毒なのだ。

 バジリスクの毒は普通のヘビのものとは危険度がケタ違いだ。バジリスクは全身に毒を持ち、歩いた跡の草木が枯れ、バジリスクが水を飲むと、その川の水すべてが毒になる。毒のニオイだけで他のヘビを殺す、毒の強さで石を砕く、見るだけで殺す、など危険なエピソードは枚挙にいとまがない。

 弱点はイタチに弱いとされている。イタチにはバジリスクの毒が効かないらしいのだが、そもそもイタチはヘビにとって天敵である。非常にヘビらしい一面も持っているのだ。ヘンルーダという薬草はバジリスクの毒を打ち消す力があり、イタチはこのヘンルーダを持っているという説もある。

 バジリスクについての最も古い記述は、大プリニウスが著した古代ローマの「博物誌」。自然科学について幅広く扱った本書は幻獣などの記述も多く、後の幻想文学にも大きな影響を与えた。

 容姿は前述の通りトサカを持つヘビで、コブラを見た人たちの間で話が膨らんでいったのではないかと想像させる。しかし、現在はかなり多様な姿で描写される幻獣になっている。トカゲであったりムカデであったり、「ハリー・ポッター」シリーズの影響で大蛇のイメージも強いかもしれない。

 そもそも中世ヨーロッパにおいては「コカトリス」と混同されたというか、同一視されていった経緯がある。コカトリスは雄鶏(おんどり)とヘビを合体させたような特徴の幻獣で、元は人の血を吸って時間をかけて殺すという性質を持っていた。その後、コカトリスをやりで刺すと毒がやりを伝って人を殺すなど、バジリスクらしい性質を持つようになっていった。

 バジリスクには「雄鶏の鳴き声に弱い」という話もあったのだが、これがいい加減に伝わり誤解を生んで、逆に同一視される原因になったのではないかとも言われている。

 現在、グリーンバシリスク、ノギハラバシリスクなど「バシリスク属」に属する実在の生物がいる。イグアナなどに近い爬虫類の一種で、トサカは持っているが、毒は持っていない。短距離であれば水上を走ることで有名である。

 麒麟という幻獣がキリンに当てはめられたり、獅子がライオンに当てはめられていったように、バジリスクも容姿の類似性から現実の生物に当てはめられて、この世に誕生したのである。