未確認生物の代名詞的存在といえば、ネス湖のネッシーだろう。ネス湖のあるスコットランドをはじめとする英国各地の湖では「首が長く、大きな体(背中にコブがある?)」の生物が目撃されており、古代の水生生物であるプレシオサウルス類と姿が似ているため、古生物の生き残りではないかと考えられたりもする。

 だが、もう少し変わった姿の未確認生物も目撃されている。それがムク・シェイルチェだ。聞き慣れない名前だが、ゲール語の「Muc—sheilche」をカタカナ表記にしたものである。

 生息している場所はスコットランドのマリー湖だ。山岳地帯ハイランド地方の北西部に位置しており、長さ20キロ、平均水深38メートルとそこそこの大きさがある湖だ。

 ネス湖より北に存在する湖の中では最大の淡水湖であり、30の島が存在する。1994年には湿地保全地域に指定された風光明媚な土地でもある。

 そんな湖に生息しているというムク・シェイルチェはネッシーなどとは違い、大ウミヘビのような姿をしているとされている。悪さをしたのか、はたまた実害があったのか、過去に人間によって退治されそうになったという話がある。

 時は1850年代、マリー湖のほとりに位置するレターウーという町に住むバンクス氏が〝湖の怪物〟を退治するために巨額の費用をかけ、大量の毒を用意して湖にまいた。しかし、その後も変わらずムク・シェイルチェの姿は目撃されたため、試みは失敗に終わったという。

 毒が弱かったのか、それともムク・シェイルチェが毒に強かったのか——バンクス氏はその後も生石灰を湖にまいたそうだが、やはり変わりはなかったとのことだ。

 現在ではあまり目撃証言も少なくなっているムク・シェイルチェだが、地元では今でも生息していると語り伝えられている。正体についても諸説あり、一般的には非常に大きく育ったオオウナギ、ないしはその誤認ではないかと考えられている。

 さて、マリー湖の周辺には聖人として知られる修道士マイル・ルバにちなんだ礼拝堂や聖なる泉、住居の一部と言われる遺跡など歴史的に重要な名所が多く残されている。キリスト教以前、ドルイドの儀式に使われていた古代の木々や、狂気を癒やす水の泉なども存在しており、非常に伝説の多い地域となっている。ムク・シェイルチェもそんな湖の伝説を彩る怪物のひとつといえるかもしれない。


【関連動画】Muc-Sheilche

https://www.youtube.com/watch?v=EEJrYbJlOME