【196】江戸時代後期に現れた巨大魚「オキナ」

2017年03月10日 12時00分

竹原春泉が描いた巨大魚「赤ゑい」

 江戸時代の天保12(1841)年に刊行された「絵本百物語」という奇談集がある。著者は桃山人で、挿絵は竹原春泉斎による書物である。

 この中には多数の妖怪が色鮮やかな絵で描かれ、鳥山石燕の「画図百鬼夜行」と並んで、日本の妖怪の存在とビジュアルを決定づけたものである。かの水木しげるさんも参考資料にしたほどだ。

 また、江戸時代にはこうした「百物語怪談本」がはやったのだが「絵本百物語」はかなり妖怪に焦点を当てた作りになっており、物語の名称が妖怪の名前そのものになっているのも特徴である。

 妖怪の成り立ちはさまざまで、人里離れた場所に住む奇妙な人物や奇病にかかった人を妖怪としたものもある。教訓として妖怪を利用する場合もある。不思議な現象や不条理に感じたことを妖怪にして納得してしまうパターンもある。もちろん中には当時の人たちにとって未知であった生物が妖怪として語られるものもあっただろう。

 当時の北海道、蝦夷の東海側に現れる「オキナ」という妖怪が「絵本百物語」に載っているのだが、未確認生物だったのではないかとも言われている。そもそも「絵本百物語」より前に「東遊記後編」という紀行文にもオキナについての記述があり、それを紹介しているのだ。

 オキナが近づくと海底からは雷のような轟音が鳴り、海は大荒れ、クジラたちは逃げていく。しかも大きすぎてこの異変に気付いた時には人間の速度ではもう逃げられないと言うのだ。どのくらい大きいのかと言うと、オキナは巨大生物というよりも人間の認識としては“島”。

 クジラが口を開けるとたくさんの魚を飲み込めるように、オキナがひとたび口を開ければクジラたちを一気に飲み込んでしまうのだという。このように非常に大きいため、オキナの全体像を目に捉えた人間はいないという。

 オキナの大きさは2〜3里との記述があり、だいたい8〜12キロメートルといったところだろうか。「ヲキナ」とも言われることがあり、象牙に似たヲキナの牙が北海道で見つかったと書いてある書物もあるようだ。

 大きさが大げさに伝わっている可能性は高いが、なんらかの生物だったのではないかと考えられる。特に人間にとって海は、同じ地球上にあってもまだ謎の範囲が大きい。クジラと真っ向から勝負できる魚類を想像するとロマンがある。

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