日本でのコンサートのあり方もこれから変わっていくのだろう。
日本だけでなく、世界でも活躍するバンドの事務所関係者と話した時にこんなことを聞いた。
「日本はライブなんかで観客がスマホやデジカメとか撮影禁止なのは当たり前のように言っているけど、もう世界は違うんだよね。ライブの様子をみんなバンバン撮るの。それをツイッターとかフェイスブックとかにあげてもらうんだよ。最高のPRになるんだよね」
日本ではまだCDなどのパッケージ商品が売れる。そのためライブの音源をそのまま録音、録画して流されては、商売にならないとの考え方もあり、当然のように撮影・録画は禁止のところが圧倒的。だが、その感覚は世界では古く、CDを売るより、ライブに来てもらい、ファンになってもらうのが、重要な戦略になっているという。
「どうせ、観客が撮ったものなんてブレブレなんだから、売り物になるわけでもないし…。それより、動画を見て『このアーティストのライブはこんなに楽しいんだ』『こんなに盛り上がっているんなら行ってみよう』と足を運ばせた方がカネになるという感覚だよね」
日本の音楽シーンで、こんな感覚が当たり前のようになる日は来るのだろうか、それとも来ないのか?
ただ、この話を聞いて「撮影OK」のライブを10年以上前にやっていたアーティストがいたことを思い出した。何かと世間を騒がせた女性デュオ「t.A.T.u.」だ。
ロシア出身でレナとジュリアの2人で結成された「t.A.T.u.」。日本の女子高生の制服を着て歌うという斬新さ、音楽の完成度も高くアルバムは200万枚の大ヒットとなった。初来日した2003年には出演予定だった「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)をドタキャンするという音楽史に残る事件も起こした。この影響で、イメージがダウン、お騒がせデュオの烙印を押されて人気は急降下。
同年末に再来日し、東京ドームで2日間の公演を行ったが、観客に向かって「撮影OK」という申し出をしたのはその時だ。東京ドームといえば5万人は収容できる大会場だが、当時、1万人程度のガラガラ状態。それでも観客は、“超異例のサービス”に、ケータイやデジカメを片手に大喜びでバンバン2人を撮影し、異様な盛り上がりを見せていた。
当時、今のようにSNSは世に広まっておらず、「t.A.T.u.」サイドも日本でのPR戦略を考えて撮影OKを出したとも思えないが、少なくとも、当時、会場にいたファンにとっては大盛り上がりの良い思い出だったはず。ハチャメチャ感はたっぷりだったが、形だけでも最先端を行っていたデュオだった。
(文化部デスク・島崎勝良)