お笑い芸人の世界は上下関係が厳しいことで知られている。他と違ってお笑いの世界が独特なのは、年齢は一切関係ないこと。年下でも少しでも早くお笑いの世界に入ったら先輩となる。このため「年下の先輩」や「年上の後輩」は当たり前のように存在しており、もちろん年上の後輩が年下の先輩に敬語で話している。

 ただ例外なのは、お笑い界に入る前から友人だったケース。この場合はお笑い界に入った時期が違っても、敬語は使わないことが多い。例えば先日、芥川賞を受賞した「ピース」又吉直樹には、中学校の同級生でともにサッカー部に所属していた芸人がいる。お笑いコンビ「キャラバン」の難波麻人だ。

 お笑いの世界に入ったのは又吉が先で難波は2年後輩にあたるが、中学の同級生だから、2人で居る時は今でもタメ口で話している。難波は「2人っきりの時は問題ないけど、“又吉君の後輩で僕の先輩”という芸人が1人入るとややこしくなるんです」

 又吉の1年後輩、難波の1年先輩の芸人を仮にAとする。又吉、難波、Aの3人で飲んだりするケースも当然出てくる。「Aさんは又吉君にとって後輩だから、又吉君は普通に『A、ちょっとあれ取って』と命令する。でも僕にとってAさんは先輩なので、『僕が取りに行きますわ』と言って立ち上がると又吉君が『いや、難波にそんなことさせられへんよ』なんて言う。最終的には『難波に取りにいかすのなら、自分で取るわ』なんて言う。あの時はちょっと変な感じでしたね」

 また同級生同士でコンビを組んでいるケースも結構多いが、同じコンビでも、お笑い界に入った時期が違う場合もある。サンドウィッチマンがそうだ。仙台出身のサンドウィッチマンは、富澤たけしが先に上京して芸人になり、それからしばらくして伊達みきおが東京に出てきた。

 そのため「富澤は先輩、伊達は後輩」という芸人もいる。お笑い関係者は「その芸人は富澤には敬語だけど、伊達には敬語は使わない。ただ富澤と伊達はタメ口で会話している…。関係性が分からないと、不思議な感じがしますよ」と苦笑していた。

(文化部デスク・藤野達哉)