現在、日本バスケットボール協会の会長を務めている川淵三郎氏(78)は強いリーダーシップを発揮し、リーグの再構築などにらつ腕を振るっている。かつて日本サッカー協会会長職の「キャプテン」時代に担当していた記者は、さまざまな面で「ご指導」をしていただいた。

 川淵氏といえば、Jリーグ創設に尽力し「チェアマン」としてサッカー界の発展に取り組んできた実力者。2002年にサッカー協会会長に就任後も、日本代表をはじめとする各分野に舌鋒鋭く切り込み、改革を実行した。それと同時に“川淵番”の担当記者陣にも厳しい視線を向けてきた。

 そのひとつが服装だった。会長に就任直後、担当記者を見回すと「オレはジャケットとネクタイをしていない記者には話をしないから」と宣言。その翌日、担当記者陣がカッチリとした服装に身を包んでいるのを確認すると、満足そうな笑顔で取材に対応してくれた。

 また、ある食事会の席でのこと。川淵氏が到着した際、ある記者がジャケットを脱いでイスの背もたれにかけているのを見て「若い記者は知らないのかもしれないが、乾杯をする前にジャケットを脱ぐのはいかがなものか。乾杯後に『失礼します』って脱ぐのが礼儀だから」とやんわりと注意するなど、当時30代が中心の担当記者陣にジャケット着脱の礼節も“助言”してくれた。

 そんなある日の取材中のこと。普段、あまり見慣れない記者が現れて川淵氏に質問を投げかけた。これに、少し複雑な表情を浮かべながら「うーん。それはどうだろうな」と軽くかわすようなコメント。比較的どんな質問に対しても、しっかりと受け答えする川淵氏にしては珍しい対応だった。

 担当取材陣もきょとんとする中、コメントを得られなかった記者が去っていくと「ジャケットも着ていない記者にオレがまともに答えるわけないだろう」とニヤリ。本紙記者もその場でネクタイを締め直したが、改めて猛暑の日でもジャケット着用を誓ったのは言うまでもない。

 服装などを含め、とかく厳しいイメージのある川淵氏だが、いつも辛辣な記事を書く記者の原稿について注意された記憶はない。川淵氏は「いつも取材している記者さんが書いたものだから。批判もしっかりと根拠があればいいし、ひとつの意見として受け止めている」と、意外にも寛容だった。

(運動部デスク・三浦憲太郎)