なんとも痛ましい事故が起きた。7月26日に東京・調布飛行場から離陸した米パイパー社製PA46型機が直後に飛行場近くの民家に墜落し、パイロットを含む乗員乗客2人と民家にいた女性が死亡した。

 事故原因にはヒューマンエラーや機体トラブル、積載重量のオーバー、猛暑の影響など諸説挙がっているが、同機は11年前に北海道・丘珠空港で着陸に失敗し、機首から地面に突っ込む事故でエンジンを損傷していたとの一報に胸を突かれた。

 事故前歴といえば、単独での航空機史上最大の死者数となった1985年の日航ジャンボ機墜落事故が有名だ。日航123便はその7年前に尻もち事故を起こし、損傷箇所は修理されたが、見た目では分からないダメージが残った。85年の事故時にはめったなことでは壊れない圧力隔壁がなんらかの原因で吹き飛んでしまい、操縦不能の事態に陥った。

 調布の事故も似た状況というわけだが、この“いわくつき”という言葉で脳裏に焼きついているのは2008年のイージス艦衝突事故だ。千葉・野島崎沖で、マグロはえ縄漁船「清徳丸」が海上自衛隊のイージス艦「あたご」と衝突し、漁船は真っ二つに割れ、海に投げ出された親子2人が行方不明となってしまった。

 事故直後、千葉・勝浦の河津漁港で取材に回った。関係者や住民は悲惨な事故を前に口が重い中、ある老漁師の自宅へ招き入れられ、事故漁船にまつわる奇妙な話を聞かされた。「こうなってしまって、言いたくはないが、清徳丸はいわくつきだったんじゃ」と漁師は吐露すると、一気に酒を飲み干した。

 清徳丸は船齢15年と比較的新しい漁船だったが、完成直後の進水式で地元漁港に向かう際、エンジントラブルに見舞われたという。本格出漁する前の漁船はGPSも搭載していなかったために位置が捕捉できない。20人以上の親族・関係者を乗せたまま一時漂流し、なんとか他の船に救助されたという。

 縁起が悪いからといって、数千万円もの値が張る漁船を売り払うワケにもいかない。「先代の清徳丸も座礁事故を起こしていてな。長く漁師をしておるが、進水式で遭難するトラブルなんて聞いたことがない。船長もどうしてこんな不運に遭うのか不思議がっておった」

 清徳丸はあたごとの衝突で、GPSもろとも海の藻くずと消えてしまい、正確にはどのような航路をたどったかは分からずじまいだった。「イージス艦を避けようにもビルみたいにデカいから、すくんでしまい、突っ込んでしまったんだろう。清徳丸にはいろいろなことがありすぎて、なにかにとりつかれてしまったんじゃ」。不幸な事故ではあったが、漁師はそれが清徳丸の宿命だったとでも言いたげだった。

 偶然か必然か何度もアクシデントに見舞われた揚げ句に大事故となった“負の連鎖”。調布で墜落したパイパーPA46のパイロットも事故歴のある“いわくつき機”をどう受け止め、操縦桿を握っていたのだろうか。

(文化部デスク・小林宏隆)