ビートたけし本紙客員編集長が審査委員長を務める「東京スポーツ映画大賞」授賞式が、今年も近づいてきた。私は2007年から担当しているが、過去の受賞者で最も強烈な印象が残っているのは、11年度に「ビートたけしのエンターテインメント賞」のカムバック賞を受賞した岡本夏生だ。

 実は岡本にはマネジャーが付いていない。そのため仕事の話はすべて本人に連絡しなくてはならない。そこで本人のケータイに電話すると、いきなり超ハイテンションで「えっ、あんた誰? 何、東スポ? 東スポが何の用なのよ! こっちは時間がないの。早く用件言って!」とまくし立てた。

 圧倒されながらも何とかカムバック賞を受賞したことを伝えると、「へえ、殿が選んだの? それはうれしいわ!」と喜んでいたが、その後がまた大変。授賞式への出席をお願いしたところ「分かった。じゃあ授賞式の日時と場所、それとあなたが今言ったことをメールで送って。私のアドレスはねえ…」と、突然アドレスを言いだした。

「ちょっと待ってください」と言いながらあわててメモすると、岡本はさらにこんなことを言い出した。「このアドレスに用件と、あなたの顔写真を写メで送って。分かった?」。ビックリして思わず「顔写真ですか?」と聞き返すと「私ねえ、顔が分からない人と一緒に仕事できないの。他の仕事の依頼でもみんなそうしてるから、あなたもそうしてね」。

 あぜんとしたものの、言うとおりにするしかない。とはいえ、私は自分の顔写真をケータイに保存するほどのナルシシストではない。もちろん1枚も保存していなかった。

 そのうえ当時はまだガラケーで、いわゆる“自撮り機能”などはなかった(あったかもしれないけれど、私は使ったことがなかった)。そのガラケーで自分の顔写真を撮るのは至難の業。1人で何度かチャレンジしたが、全く撮れなかった。

 その時はたまたま自宅にいたのだが、あいにく妻は外出中。仕方がないので当時5歳の長男に「お父さんの顔が写ってる状態で、ここを押して」と頼んで撮ってもらったが、何回やってもピンボケになる。それでも一番マシな写真を送ると、岡本から「ボケボケだね。まあいいでしょ」と返信が。それを見て、とにかくホッとしたのを覚えている。

 出演交渉は大変だったが、そのかいもあって岡本は授賞式を大いに盛り上げてくれた。1980年代後半のレースクイーン時代に着ていたという「カップヌードルレーシングチーム」の“黄金のハイレグ”を着て登場。髪の毛を高さ約1メートルに盛ったうえ、手にはバブル時代に「ジュリアナギャル」が持っていたヒラヒラの扇子まで用意していた。ド派手な姿にたけしも「パーティーに贈られる花みたいなのがいる、と思ったら岡本夏生じゃねえか」と大喜びだった。

 それにしても生き馬の目を抜く芸能界を、マネジャーも付けずに女性1人でやっていくには、岡本くらいのバイタリティーがなければムリなのだろう、と妙に納得したのを覚えている。

(文化部デスク・藤野達哉)