今年は元日のスポーツメニューから「天皇杯全日本サッカー選手権決勝」が消えた。日本代表の連覇が懸かるアジアカップが9日からオーストラリアで開幕するのを受けて、全日程を前倒し。すでに昨年12月13日に決勝が行われ、G大阪がリーグ戦、ナビスコ杯に続く優勝を果たし、3冠を獲得したのは記憶に新しいところだ。

 アジアカップに備えて日本代表としては十分な調整期間がほしいところ。そのためにはクリスマス前後から準々決勝以降の激戦が始まるという日程は、選手の疲労蓄積や回復の面で好ましくない。今回の日程変更はサッカー界の「常識」から考えれば当然の流れだろう。
 とはいえ、元日に天皇杯決勝が行われないのは47大会ぶり。日本協会、というより日本サッカー界は「元日」「国立競技場」「天皇杯決勝」という“3点セット”へのこだわりが強かった。

 そもそも元日決勝の歴史が始まったきっかけは、国立競技場に近い明治神宮の参拝者に少しでも来場してほしいという理由から。つまり、伝統を作りたいといった特別な意味があったわけではなく、集客を増やしたいという目先の数字を追っただけのことだった。

 時は流れ、サッカーを取り巻く環境や風習は様変わりした。それでも日本協会は元日へのこだわりを捨てていない。国立競技場が改修工事、アジアカップのイレギュラー開催で“3点セット”の2つの要素が消えても、今年は「皇后杯全日本女子サッカー選手権」の決勝(日テレが浦和を1—0で下し5大会ぶり11度目の大会制覇)を行うことで、元日にサッカーをやる風物詩を残した——もっと言えば「元日にタイトルが懸かった決勝戦を行う」という、世界でも例を見ない伝統だけは守った。

 一般人からすれば「元日からサッカーなんて」と思いたくなる。だが、選手たちはそうではない。浦和在籍時に天皇杯を制したMF長谷部誠(30=Eフランクフルト)は「正月だから休みたい、なんてとんでもない。僕らにとって元日から真剣勝負ができるなんて、選手冥利に尽きますよ。リーグ戦優勝も大事ですが、元日の天皇杯決勝は特別なんです。それに、僕らは高校時代から正月の(全国高校サッカー)選手権を目指していたんで、正月に公式戦をやっていないほうが寂しいというのがあるんです」と語っていたのを思い出す。

 この風潮は男子に限ったことではない。なでしこジャパンMF川澄奈穂美(29=INAC神戸)も「小さいころから天皇杯を見ていて、私も元日にサッカーやりたいって思っていたんです。だから女子も元日決勝になったのは本当にうれしいし、そこで勝ててもっとうれしい」。

 女子の全日本選手権決勝は2004年度大会から天皇杯の前座の形で元日開催に変更。10年度大会で優勝した川澄のように、女子にも元日への憧れはあるのだ。

 全日本女子選手権優勝チームには12年度から「皇后杯」が授与されることとなり、決勝も元日開催ではなくなった。今回の元日決勝復活はあくまで暫定的措置。男子のアジアカップがない来年は再び元日に天皇杯決勝が戻ってくるため、皇后杯の日程は未定だ。世界を制した「なでしこ」が男子の前座なんてひどい扱いだ、という意見もごもっとも。だが、個人的には女子にも「元日」の夢を与えてほしいと思っている。

(運動部デスク・瀬谷 宏)