ビートたけし本紙客員編集長が審査委員長を務める「東京スポーツ映画大賞」を2007年から担当している。重要な仕事は、受賞者が授賞式に出席するための交渉だ。

 この賞は根回しなしの“ガチ選考”がウリのため、交渉は新聞紙上で発表した後になる。事前に調整できないため、スケジュールを合わせるのが難しい。とはいえ、たけしが選んだ賞だけに、ほとんどの受賞者は大喜びする。ただ一つ、特別作品賞を除いては。その特別作品賞とはどんな賞なのか?

 紙面上では「過去に『デビルマン』や『日本以外全部沈没』など“怪作”が受賞している」と説明しているが、はっきり言ってしまえば「この1年で最もダメな映画」に与える賞なのだ。

「あなた方の映画が一番ダメな映画に選ばれました」などと言うのは、非常に気が重い(もちろんこんな言い方はしないけど…)。こちらとしては「授賞式には誰も来ないだろう」と思いながら連絡しているが…。過去には「絶対来るわけない」と思っていた人が出席したことがある。

 11年の「第20回東スポ映画大賞」の「座頭市 THE LAST」がそれ。香取慎吾主演で大コケした映画だ。たけしは自ら監督、主演した「座頭市」が「ベネチア国際映画賞」で銀獅子賞(監督賞)を受賞しているだけに特別の思い入れがあるのだろう。「座頭市 THE LAST」を選んだ際には「『座頭市』を見事に終わらせてくれました」「監督が阪本順治っていうから、わりとまともなものになるかと思ったのにひどかったね」と酷評した。

 誰も出席しないと思ったのだが授賞式の約1週間前、阪本監督の事務所から「出席させていただきます」との返答が。連絡を受けた記者は「ひょっとして、特別作品賞の意味を分かってないのでは? それなら授賞式でトラブルになるかも」と考え、「あの〜、この賞は褒めているわけじゃなくバカにした感じの賞なんです。それは理解されていますか?」と聞くと「阪本はすべて理解したうえで、出席する意向です」と返事があった。

 授賞式にやって来た阪本監督は「褒めてもらう時だけ来て、こういう時は来ないというのはどうかと思って来ました。自分では最高傑作だと思ってます」と堂々と話した。この姿にたけしも「えらい」と称賛した。

 感動的シーンだが、話はそれだけでは終わらない。阪本監督は翌年「大鹿村騒動記」でいくつかの映画賞を受賞した。前年の経緯もあるので「東スポ映画大賞でも監督賞か作品賞に選んでは」との意見も出たが、たけしはあっさり「いや、いいよ」。やっぱり“ガチ選考”なのだ!

(文化部デスク・藤野達哉)