これぞ!過酷なプロの世界——ラモスが新人選手の新車ポルシェに……

2014年10月06日 12時00分

 かつてJリーグの盟主と呼ばれたヴェルディ川崎(現J2東京V)を担当していた1990年代の話。まだ駆け出しだった記者はクラブハウスの駐車場で日本代表でも10番を背負うMFラモス瑠偉(現J2岐阜監督)の取材をしていた。

 和やかなムードで取材が進み、たわいもない話題にも気さくに対応してくれた。だが、突然顔色を変えると、植え込みに向かって猛ダッシュ。両手いっぱいに土をつかみ取り、止めてあったポルシェのボンネットに思い切り投げつけた。ラモスは「ふざけんなよ! 10年早いんだよ!」と怒鳴り散らすと、そのまま帰路に就いた。

 実は、駐車場で選手たちが乗る高級外車について話が及んだ際、見慣れないピカピカのポルシェを見つけたラモスは報道陣に「誰の車?」と持ち主を確認。記者が「新人のH選手。新車ですよ」と答えた瞬間にキレてしまったのだ。どうやらレギュラーでもない選手に「高級車に乗る資格はない」というラモス流のメッセージだったようだ。

 チーム重鎮の逆鱗に触れてしまったHは当時、試合に出始めたばかりのルーキー。たくさんの勝利給を手にし、さらに自らを奮い立たせる意味も込め、あこがれだった車を購入したという。だが、無残な姿となった愛車を見つけると「やられるとは思ってましたが、何も土をぶっかけなくても…」とつぶやき、涙目で土を払っていた。

 その翌日からHは愛車を封印。チームメートに送迎してもらうようになった。この事件は、すぐに若手選手の間に広まり「国産車ならよかったのか?」「スタメンで何試合出場したら外車に乗っていいのか」と大議論に発展。記者にも「車は欲しいけど、どんな車なら許されるのか」と逆質問が相次いだ。

 ラモスは20歳でブラジルから来日し、JSL時代は、電車とバスを乗り継いでクラブハウスに通うか、松木安太郎氏の送迎だったという。ピッチで大活躍し、ようやく高額年俸を手にするようになると、あこがれだった「BMW」を購入。運転免許を持っていないため個人マネジャーが送迎を担当していた。

 自らが愛車を自由に乗れるまでにかなり苦労したこともあって、若手にも厳しい目を向けたわけだが、まだ新人だった記者には過酷なプロの世界を垣間見た刺激的な出来事だった。

(運動部デスク・三浦憲太郎)

 

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