バリー・ボンズの偉大なホームラン記録——その源は「キ」

2014年05月26日 12時00分

 つい先日のこと。現在ロッキーズで打撃絶好調のトロイ・トゥロウィツキー内野手が米スポーツ専門局「ESPN」のインタビューに応じ、こう口にしていた。

「ボクが打席で大事にしているのは“キ”だよ。投手の発する“キ”の流れを感じることによって、相手が何を投げてくるのかを見切るんだ」

 この“キ”とは“気”のことである。トゥロウィツキーは「aura(オーラ)」と言わず、あえて「キ=気」と言っていた。

 聞くところによると、彼は東洋文化に興味があって「ジー・クン・ドー」と呼ばれる格闘技の心得が多少あるらしい。

 面白いことを言う選手だなと思っていたら、ふと昔の出来事が頭に浮かんだ。あのバリー・ボンズ氏とのやり取りだ。

 私が2002年の夏にメジャーリーグの取材へ行った際、当時のボンズ氏は現役バリバリでサンフランシスコ・ジャイアンツの主砲。まだ薬物騒動が表面化する前の時期だったものの、その高慢な態度によってボンズ氏は米メディアと劣悪な関係に陥っていた。

 親しいジ軍の番記者からは「彼を取材するには少々勇気がいるぞ」との忠告を受けていたが、他にめぼしいネタが見つからなかったので意を決してボンズ氏を直撃。クラブハウスの専用ソファにどっかりと腰掛けた彼から何か興味深いことを聞けないかと威圧感にビビらされながらも、あらかじめ頭の中で用意していた質問を矢継ぎ早に繰り出した。

 しかし、それらの質問に対してボンズ氏は視線も合わせずに「……」。まさに完全無視だった。ああ、やっぱりダメなのか…。そんなふうに半ば諦めかけながら、最後はこう単刀直入に聞いてみることにした。

「なぜ、あなたはそんなに特別な存在なのですか」と——。

 そうしたらボンズ氏は突然こちらに鋭い眼光を向け、次のように言った。

「“キ”だ。私は相手投手の放つ“キ”の流れを肌で感じて、ボールのコースを見切ることができる。お前は日本人だろう。ならば、その意味が分かるはずだ。これ以上の説明をオレから聞く必要はない」

 本当はもう少し正確な言葉が欲しかったが、彼が言わんとしていることは理解できた。前出のトゥロウィツキーと同じくボンズ氏もまた東洋文化に精通しており「キ=気」の重要性を強調していたのである。

 薬物使用のイメージはもう拭い去れないとはいえ、ボンズ氏が後世に残る成績を残したことだけは確かだ。

「仮に彼がステロイドをやっていたと認めても、ホームランの価値が損なわれるとは思わない」とは、レッドソックスの強打者デービッド・オルティスの弁。

 偉大な記録は薬物によるものではなく「気」の力で作り上げたものだと信じたい。

(運動部デスク・三島俊夫)