「このたび、晴れてドラマのオーディションに合格しました。まだ詳細は話せないんですが、報告だけは先にしておこうと思いまして」

 その男が弾んだ声で電話をしてきたのは、3月半ばだっただろうか。聞けばドラマのタイトルは、池井戸潤原作の「ルーズヴェルト・ゲーム」(TBS系)。昨年大ヒットした「半沢直樹」と同じ原作者、スタッフ、放送枠で、放映前から話題になっていた作品だ。

 男の名は「小橋」という。東スポで小橋といえば小橋建太だが、彼はプロレスラーではなく元プロ野球選手の小橋正佳。1993年にドラフト5位で市立尼崎から投手としてヤクルトに入団したものの、引退する97年まで一軍登板なし。亡き岩田暁美さんが何度か本紙コラム「ギョーカイ発24時」で取り上げたことはあったが、本業で活字になるような活躍をすることはなかった。

 彼のユニホーム姿を最後に見たのは97年の秋だった。当時、カープ担当をしていた私がネタ探しに二軍が使う山口県の由宇球場に行くと、小橋はヤクルトのユニホーム姿でピッチングを披露していた。「久しぶりやなあ。入団テストか? 受かるといいなあ」。そう声をかけたが、結果は不合格。そこからしばらく音信不通になっていた。

 ひょんなことから再会を果たしたのは2011年6月のこと。役者だけでは食っていけず、メーンの稼ぎはアルバイトだという。それでも目はイキイキとしていたのでホッとしたら、内心、そうでもなかったようだ。

「元プロってだけで、ちょっとした犯罪でも大きな記事になったりするじゃないっすか。『元○○の選手が逮捕』みたいな報道が出るたびに、『自分は気をつけなきゃ』とか『自分にもそうなる日が来るんじゃないか』ってビクビクしますよ」

 役者としてのスキルを買われたのか、190センチの長身が評価されただけなのかは分からない。ただ、27日に放映された第1話を見る限り、小橋が演じた4番打者でレフトを守る鷺宮は、現役時代よりも(?)のびのびとプレーしているように見えた。

(運動部デスク・礒崎圭介)