パス1本で相手の心と体調が読めた小野伸二の驚異の「会話」能力

2014年02月24日 12時00分

 最近の日本サッカー界には「テクニシャン」と呼ばれる選手が増えた。今の日本代表ではFW香川真司(24=マンチェスター・ユナイテッド)やFW柿谷曜一朗(24=C大阪)がその筆頭格だが、私はそれでも元日本代表MF小野伸二(34=ウェスタンシドニー)を超える選手はいないと思っている。

 根っからのサッカー小僧。そして天才。そんな表現がピッタリの男は、Jリーグでも日本代表でも、そして欧州サッカーでも華麗なプレーを見せ、多くのファンを魅了した。以前、多様なキックができる小野がさまざまなバリエーションのシュートを放っている練習を見て「7色のシュート」と称した記事を書いたことがあったが、後日「まだ甘いね。7色どころじゃないよ」と“引き出し”の多さを自慢されたこともあった。

 そんな小野の最大の武器は「適応能力の高さ」だ。オランダの名門フェイエノールトに移籍し、あっという間にチームに溶け込めたのもオランダ語を早々とマスターしたから。オランダ語はドイツ語と似ているが、東洋人では発音しにくい言葉が多く、日本人にとっては難しい言語と言われる。だが、小野は移籍から半年でチームメートと問題なくコミュニケーションをとっていた。

 練習後の小野はスパイクを脱ぎ、芝の上に体操座りのままソックス姿でリフティングをすることが恒例だった。フェイエノールトの選手でもこれに付き合える技術の持ち主は少なかったが、当時主将のMFポール・ボスフェルト(元オランダ代表)は小野と向かい合わせに座ってリフティングでパス交換しながら世間話に興じていた。ただでさえ曲芸じみているのに、これを普通にオランダ語で会話しながら。しかも時折ジョークなんかも交えていた。もはや驚きを超え、感動するばかりだった。

 練習の帰りがけ、小野からこんなことも言われた。

「僕はパス1本もらうだけで、相手が何を言いたいのか、体調がどんな感じなのか分かるんです。ボールの回転やスピードで『この選手はどこか痛めているところがあるな』とか『この選手、今日はあまり走れないな』とか」

 そこで感じ取った“言葉”から、その日の練習や試合でパススピードを変えたりしていたという。小野にとっては、しゃべるだけが会話じゃないのだ。

 まさに「ボールはトモダチ」といわんばかりの“リアル・キャプテン翼”。オーストラリアに舞台を移して昨季は大活躍したが、小野の“会話能力”をもってすれば簡単なことだったのかもしれない。

(運動部デスク・瀬谷宏)