かつて「Jリーグの盟主」と呼ばれたヴェルディ川崎(現J2東京V)を担当していた1990年代半ばの話。96年シーズンに低迷したV川崎はブラジル代表GKとして4回もW杯に出場したエメルソン・レオン氏を新監督に指名したが、契約交渉は意外な問題で難航したという。

 当時の関係者らによると、チーム再建のため厳格な指導で知られるレオン氏の招聘はスムーズに進んだ。最大の懸念とされていた年俸面で合意し、あとは細部の調整を残す段階になった際、レオン氏は「私が日本で使用する車はソアラにしてほしい」と新条件を提示した。

 当時、トヨタ自動車のソアラは高級車として知られており、レオン氏は「日本で最高級の車」にこだわったという。クラブ側も当初は前向きだったが、調べてみると、人気の車種だったため長期間レンタルできる在庫がない。そこで日を改めて「違う高級車でもいいか」と打診すると、レオン氏は断固として「ノー。ソアラだ」と言い張ったという。

 そこでクラブ側はソアラ以外のあらゆる高級車を提示し「これもいい車だ」と薦めたが、譲らなかった。最終的に契約をまとめないといけない期限が迫る中、クラブ側は「この車はどうだ! 値段はソアラ以上だぞ!」と言うと、レオン氏はようやく全ての条件を受け入れたという。

 チーム関係者は「結局は彼のプライドなんですよ。周りから『日本で一番良い車がソアラ』と吹き込まれていたので、ソアラ以上という言葉に納得したのでしょう」。正確な比較はできないので車名(国産スポーツカー)は控えるが、来日した名将は年俸よりもこだわった愛車でクラブハウスに通っていた。

(運動部デスク・三浦憲太郎)