「楽しむ」って一体何なのか。メジャーリーグを取材し始めてから、いつも頭のどこかで気になっていることだ。

 好調の秘訣や、ビッグプレーが生まれた背景などに質問が及ぶと、メジャーリーガーの多くが決まってこのフレーズを口にする。「試合を楽しんでいる」「楽しんでプレーしている」などなど。そして「楽しむ」というマインドについて掘り下げると(こと野球に関しては)結局「その競技が好きだから」に行き着く。

 確かに重圧などを感じず「楽しむ」ことで精神を解放できれば、肉体的にも緊張がほぐれるし、それが本来の持ち味を引き出すだけでなく、独創的なプレーや奇跡的なパフォーマンスにつながる可能性も高まる。

 こうしたコメントをすることで、自身に言い聞かせるという側面もあるだろう。しかし、そういうマインドでプレーするのって難しくないか? と思ってしまうのは自分だけだろうか。そんな思いを抱きつつ、ヤンキースの田中投手に「他の選手同様、プレーを楽しんでいるのか」と聞いたことがあった。すると苦笑しながら「(自分は)楽しんでないかな。『プレーを楽しむ』っていうのは難しいですよね」。

 さらに聞き進めると、彼は「どういうふうに言えば伝わるんだろ…」と思いをめぐらしつつ、こう続けてくれた。「もちろん、自分の好きなことをやっているわけだからっていうのは根底にあるけど、『楽しい』というよりは『自分の力を出し切る』ことしか考えてないですかね。どういう状況であれ」

 サッカー日本代表の中島翔哉も繰り返し強調している「プレーを楽しむ」。スタンスは人それぞれだが、その境地に達するのは簡単ではないのかもしれない。

(運動部主任・佐藤浩一)