外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が成立し、来年4月から施行される。この法案議論で脚光を浴びたのが、技能実習制度で来日した外国人が劣悪な環境に置かれている実態だ。ベトナム人の犯罪増加と大きくリンクしている。

 4年前、ベトナム人の技能実習生らが大学構内で飼われていたヤギを盗み、食べてしまった事件に衝撃が走った。警察庁によると、来日外国人の犯罪検挙数でそれまで、ベトナム人による犯罪検挙数は1000件台で推移していたが、この数年、急増。昨年は5140件と膨れ上がり、ついに中国人を抜いて首位になった。

 背景には著しい経済成長を遂げるベトナムから、日本への就労者や留学生が増加している事情がある。ベトナムの平均月給は2万〜3万円で「日本で働き、毎月10万円ためれば、1年で家が建つ」といわれる。

 ただ来日を希望しても簡単に働けるワケではない。ベトナム人が日本で働くには、日系企業による技能実習制度を利用し、在留資格を得るのが大半だ。留学の場合はアルバイトなどに時間制限があり、フルタイムで働くことはできない。

 ベトナム事情に詳しい関係者は「技能実習制度もなかなか許可が下りないので、数十万〜数百万円の手数料を取り、就労をあっせんする悪徳ブローカーがはびこっている。日本に行っても日本語を覚えないといけないので、日本語学校へ通うとなればまたお金もかかる。結局、借金を背負って、日本に行くことになる」と話す。

 それでも日本で働けば元は取れる計算となるハズだが、そうもいかない。「受け入れ企業は当たり外れが多く、一日中働かされ、休み日もほぼなく、月4万〜5万円の賃金しかないなんてことはザラ。生活費を差し引けば、貯金や仕送りに回す余裕もない。技能実習制度は3年で、日本に来ても借金が返せないで自暴自棄になって、犯罪に走ってしまうケースもある」(同関係者)

 警察庁は「ベトナム人の一部の素行不良者がグループを形成し、犯罪を行っている実態が見られる」と分析。犯罪の内訳では複数で大量万引きし、海外に転売するケースが多い。さらに昨年からは空き巣が急増している。

 就労ハードルの高さに目をつけ、就労制限のない在留資格の不正発行を狙う事件も多発している。入管難民法違反で逮捕されたベトナム人女性は、在留資格者の家族に滞在ビザが支給される制度を悪用し、手数料400万円を取って、ベトナム人女性を自身の子供と偽り入国させた。

 ベトナム人は真面目でおとなしい国民性といわれるが、横行する闇ビジネスや一部の悪徳ブラック企業や経営者、ブローカーに使い捨てされた揚げ句、自らも犯罪に手を染めてしまう“負の連鎖”に陥っている側面もある。冒頭のヤギ事件も困窮の果てに起きた犯行だった。

 政府は当面、特定技能1号での受け入れはベトナムを含む9か国を指定。犯罪の増加に歯止めをかけるためにも外国人労働者の受け入れ、送り出しの双方に厳しいチェックを入れる必要がある。

(文化部デスク・小林宏隆)