台湾で初めて設置された慰安婦像に藤井実彦氏が蹴りを入れたと、台湾国民党の謝龍介国会議員が9月に画像・映像をともにSNSにアップしたことについて、藤井氏が「蹴っていない。画像は加工されたもの」と反論したことは本紙既報。その藤井氏は自費で日本の調査機関に画像解析を依頼し、その結果は蹴っていなかったという。

 藤井氏は民間団体「慰安婦の真実国民運動」の幹事として、慰安婦像設置を主導した謝氏に公開質問状を手渡すために台湾入り。しかし、質問状を受け取った謝氏はその後、SNSに「日本人が慰安婦像を蹴った」として画像と動画をアップした。藤井氏は一貫して「蹴っていない。ストレッチだ」としているが、団体は「当人にどんな事情があったとしても、客観的に見て不快感を与える不用意・不適切な行動であったことは間違いない」との結論に至ったとして、藤井氏は幹事を辞任した。

 藤井氏はその後、画像・動画の検証を自ら行っていた。解析を依頼した「コンサルティングMiMi」は日本の刑事事件、民事事件に映像解析報告書を提出できるレベルの調査機関。同社は、詳細な解析結果として「映像内の人物が銅像を蹴っているとされる事実は確認できませんでした」と結論を出した。

 そして、同社は「一連の映像について、人物は右手でなにか(メガネ?)を持ち、左手は左太ももを押さえている状態です。通常、この姿勢を保ちながら、蹴りと呼べる一連の動作をするには難しい体勢であることが確認できます。今回の映像は縮小されて圧縮率が変更されている可能性があるので、それで手が見えにくくなっている可能性はあります」とした。

 この結果を受けて藤井氏は「私はこの場所に5分ほどおりました。最初の1分で今回訪問の意図を動画で撮影しました。さらに残り3〜4分で後ろの碑文を指さして写真撮影いたしました。最後に隣の喫茶店に行く際、長時間の移動でうっ血し、しびれていた左足を一瞬ストレッチしたのですが、その一瞬を切り取って蹴ったとして拡散されました。私自身は蹴っていないし、蹴る意思もなかったことは何度も申し上げておりますが、その点が、画像の解析という点ではっきりとしたことは、大変にうれしく思います」と語った。

 藤井氏によると、「そもそも慰安婦問題は1980年代に日本の一個人の吉田清治氏が行った偽書が、日本のメディアによる調査不足の拡散によって世界中に広まった」という。そこで、謝氏に公開質問状を渡し、その後、公開討論が行われるはずだった。しかし、謝氏のSNSに端を発する“蹴り騒動”で公開討論は棚上げ状態になっている。

 一方、台湾民視テレビが先日、この鑑定結果を放送したところ、反響が大きいという。

 親日国家として知られる台湾には3つのエスニックがある。古くから台湾に住んでいた「本省人」と「原住民」は独立派で親日。戦後になって大陸での共産党軍との内戦に敗れた国民党軍とともに渡ってきた「外省人」は中国人意識が強く、中国との統一を望み、反日で、国民党の支持層だ。

 台湾在住のジャーナリストは「この慰安婦像を蹴った蹴らない騒動について、台湾人の一部は『蹴ったように見せかけた国民党の印象操作だ』と言い出しています。そもそも、慰安婦像設置で騒いでいるのは、台南の一部の国民党関係者とその取り巻きであって、大多数の台湾人は無関心。もともと台南は、民進党が強く、今の行政院長も元台南市長。人気も高い。だから、台南の国民党としては、あらゆる手段を使って国民の気を引きたいのでしょう。藤井氏は11月の統一地方選挙に利用された感じです」と語っている。

(文化部デスク・三浦伸治)