2015年に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成遺産のひとつとして、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録された長崎県長崎市の「軍艦島」(端島)と、炭鉱遺産が残されている島として知られる同市の「池島」を巡る「池島散策&軍艦島周遊ワンデイツアー」に注目が集まっている。

 写真集「未来世紀 軍艦島」などを著しているフリーカメラマンの酒井透氏は、ツアーに参加した経験をこう語る。

「同ツアー最大の魅力は、池島に残されている炭鉱遺産を見られることです。地中から地上へと上げられた石炭に混ざっていた不純物(ポタ)を取り除き、品質別に選別をしていた選炭工場があるんです。製品になった石炭を船積み場に運んでいた巨大なジブローダーもあります。そして、池島ウォークでは、そびえ立つ2つの立坑(排気立坑と第2立坑)や火力発電所、歓楽街、小中学校、炭鉱アパート群などを見て歩くことができるんですよ」

 軍艦島での石炭の発見は19世紀初頭とされ、軍艦島にあった端島炭鉱は1974年に閉山した。一方、池島では59年から三井松島産業の子会社である松島炭鉱によって営業出炭が始まった。最盛期の85年には150万トンを超える石炭が採掘された。98年7月には、松島炭鉱の池島鉱業所から池島炭鉱に改称。〝九州最後の炭鉱〟として閉山を迎えたのは2001年。8000人弱の人が住んでいた時期もあるが、閉山した今は150人ほどが暮らしている。

 数多くの炭鉱施設や機械などが今も残されている池島では、実際の坑道を見学できる。トロッコに乗って坑内見学ができるのは、国内では池島だけだ。

 このツアーは軍艦島伝道師として知られる黒沢永紀氏が企画し、自らツアーナビゲートも務めている。

 ツアーを催行している軍艦島コンシェルジュの久遠裕子氏は「軍艦島には人は住んでいませんが、池島には人情味があります。すれ違う人がみんな、あいさつをしてくれます。きれいな花も咲いていて、どこを見てもフォトジェニック。将来的には池島に一泊できるようなツアーもできるといいなと思っています」と語っている。

 09年から行われている「軍艦島上陸ツアー」では、同島の東側にある220メートルあまりの遊歩道を歩く。遊歩道を外れて行動することは許されていないため、同島の西側にある炭鉱アパート群などに近づくことはできない。しかし、池島では会社の私有地など、立ち入り禁止区域を除いて自由に歩くことが可能だ。

 黒沢氏は「軍艦島には、実質30分くらいしかいられないんです。長崎市としては、遊歩道を拡張する計画があったのですが、観光客がどんどん来るので、現状維持ということになっています。それに対して、池島は歩き疲れるほど歩くことができます。このまま観光客が増えて、SNSで発信してもらえれば、お客さんも増えていくと思います」と話している。

(文化部デスク・三浦伸治)