4人の番記者をうならせた大谷の「フリー打撃」

2018年05月21日 12時00分

 エンゼルス・大谷翔平投手(23)が前例のないメジャー適応を見せつけている。

 2月15日、アリゾナ州テンピでのキャンプインから本拠地エンゼル・スタジアムで12三振を奪いデビュー2連勝を飾った4月8日までの2か月弱、二刀流を追いかけたが、デビューまでの展開は全くの予測不能。そのストーリー自体がこれまでの日本人メジャーリーガーがたどってきたパターンに当てはまらないものだった。

 オープン戦で防御率27・00、打率1割2分5厘と投打にわたって結果の出なかった大谷。今となっては「シーズンはマイナーから始めるべき」「彼の打撃は高校生レベル」と、早過ぎた批判を展開した米国人記者が恥をかく結果となったが、少なくとも結果の出ていなかったあの時点では批判されてしかるべきだった。

 なにしろメジャーは結果が全ての世界。引退前からすでに殿堂入りを確実視されているあのイチローをはじめ、松井、松坂、ダルビッシュ、田中ら日本のトッププレーヤーたちが立場が保障されたメジャー契約だったとはいえ「自分が何者であるか」を証明するために、オープン戦から必死に結果を出しにいっていた歴史がある。

 大谷も例に漏れずマウンドの傾斜、打者としてテンポの合わない外国人投手に対応しようと必死にもがき苦しんでいた。日本ハムでの過去5年間を見ていないマイク・ソーシア監督(59)はそのころ「彼の才能は本物であり我々としては彼を信じている。投手としても打者としてもシーズンが始まってからを考えている」というコメントを呪文のように繰り返していた。

 一方で、わずか1回1/3で7安打7失点降板と大谷が炎上した3月17日のロッキーズ戦では、実戦4試合目の登板で一向に好転してこない大谷の状態に業を煮やし、ベンチで片腕の水原通訳を怒鳴りつけるなどのフラストレーションもあらわにしていたのだ。

 現場にいた日米メディアはもちろん、ソーシア監督を含めたエンゼルス関係者の中に、この時点でメジャーにこれほどインパクトのあるセンセーションを巻き起こしている大谷の現状を予測できた人間がいたとは今でも思えない。ただ、この時点で見切りをつけ大谷批判を展開した一部米国メディアにはある共通項がある。実際に大谷の練習を見ずに原稿を書いたという決定的な落ち度だ。

 オープン戦中に大谷を批判し、後に撤回するハメになった米メディアの多くは拠点を東海岸に置く遊軍記者、コラムニストが多い。キャンプ中からエンゼルスに張り付いていた地元メディア3社、計4人の番記者は、野手キャンプ初日から見る者を圧倒してきた大谷のフリー打撃が“抑止力”となって、批判をすんでのところで踏みとどまっていた。

 そのうちの一人は「あの打撃練習を見れば彼が限られた才能を持つひと握りの選手であることは一目瞭然。流れるようなしなやかなスイングからメジャーを代表するトラウトやプホルスよりも打球を遠くに飛ばせる選手はそういない。あの打撃練習こそが彼の信用だった」と後に語っていた。

 今では「メジャーで見るべき名物」のひとつに数えられている大谷のフリー打撃こそ、まだ何者でもなかった大谷の期待をつなぎ留める目に見える信用だった。

(運動部主任・伊藤順一)