現在Jリーグではリーグ優勝と並行してJ1残留、昇格争いが繰り広げられている。当然のことだが、チームにとって最もキツイのが降格だ。

 これで最も印象に残っているのが、1999年、浦和レッズの降格が決まった試合だ。Jリーグはこの年からJ1、J2の2部制をスタート。J1は16チームの中で、最終節を前にベルマーレ平塚(現湘南)の降格が決定。降格するのはもう1チームで、残り1試合で福岡、浦和、市原が残留争いをしていた。

 最終節前の時点で福岡の勝ち点が28、浦和が26、市原が25。ただし、得失点差は浦和が劣るため、浦和は90分での勝利が必要。90分での勝利というのは、当時のJリーグは延長Vゴール方式を採用していたからだ。延長戦突入後にゴールを決めた瞬間試合が終わるルールである。90分での勝利が勝ち点3、Vゴールによる勝利が勝ち点2と定められていた。この1点差が悲劇を生んだ。

 試合は各会場で同時間にスタート。90分を終えた時点で、福岡が敗れ、市原が勝利、そして浦和は0—0のまま延長戦に突入した。つまり、延長戦に入った時点で浦和の降格は決まっていたのだ。この情報が伝わったのか、サポーターから悲鳴が起こった。

 それでも試合は延長後半1分、キャプテンの福田正博がVゴールを決め勝利。直後チームメートが駆け寄ったが、すでに結果を知っていたため、怒ったように福田はこれを振り払った。試合後、福田は「こんなに悔しいゴールは初めてです」と言って涙を浮かべた。ゴールを決めて「悔しい」と言うのも初めてだろう。彼を囲んだ記者たちは言葉を失った

 最終的に市原が勝ち点28、福岡が28、浦和が27。わずか勝ち点1差で涙をのんだ。「残酷すぎる」という意見もあり、現在では廃止されたVゴール方式が生んだ悲劇でもある。

(編集顧問・原口典彰)