【デスク発ウラ話】ピッチ内外で日本人の意地を見せた一戦

2020年06月08日 12時00分

 本来ならこの時期に行われているはずだったサッカーの欧州選手権(ユーロ)。世界的な注目度はW杯のほうが上かもしれないが、大会の質や出場チームの実力はユーロのほうが高いという意見も多い。そんな大会に一度だけ私も“フル参戦”したことがある。

 2004年ポルトガル大会。この直前にU―23日本代表が出場していたトゥーロン国際大会(フランス)の取材から回ったのだが、本当に貴重な経験をたくさんさせてもらった。印象的な試合、プレーの連続。開幕戦で対戦した開催国ポルトガルとギリシャが、1か月後の決勝戦でも顔を合わせたのは、国際サッカー連盟(FIFA)主催の国際大会史上初めてのことで、ギリシャが開催国の夢を砕く勝利で初優勝という歴史的なシーンも目撃した。

 実はこの話には続きがある。1年後にドイツで行われたコンフェデレーションズカップでのこと。ジーコ監督率いる日本代表は前年のアジアカップで優勝して出場権を獲得。1次リーグではブラジル、メキシコ、ギリシャと同組となり、日本は初戦のメキシコ戦で敗れて2戦目のギリシャ戦を迎えた。

 欧州王者との対戦というのは選手だけでなく、報道陣にとっても貴重な機会。当然、ギリシャの練習に日本の報道陣は多数押しかけた。ただ、ここでやっかいなことが起こった。ギリシャのオットー・レーハーゲル監督がこんなことを言い出したのだ。

「ギリシャのことをよく知りもしない日本人に何も話すことはない」

 レーハーゲル監督が気難しい指導者だということは、前年のユーロでも知られていた。開催国ポルトガルのメディアが何を聞いてもまともな答えを返さず、多くの記者があきれていたのを思い出す。

 そんな指揮官はこんなことも付け加えてきた。

「我々はユーロを勝ってここにいる。もし、ユーロ決勝戦のギリシャのスタメンを言えるなら、取材に応じてやろう」

 ずいぶんとナメられたものだ。1年前、私はギリシャの開幕戦も決勝戦も取材し、決勝の前には特集記事も書いた。嫌というほど自分の取材ノートにギリシャのスタメンを書き連ねていただけに、その要求は私にとって難題ではなかった。

「ニコポリディス、セイタリディス、カプシス、デラス、フィサス、カツラニス、ザゴラキス、バシナス、ハリステアス、ジャンナコプーロス、ブリザス。ハリステアスが後半にゴールを決めて1―0で勝ちました」

 難なく答えた私を見たレーハーゲル監督の顔は今も忘れない。

「驚いた。パーフェクトだ。日本戦のスタメンは教えられないが、質問があれば答えよう」

 1年前のことがこんな時に役立つとは。長く取材を続けているとこんなこともあるものだ。日本代表はFW大黒将志の活躍などでギリシャを1―0で撃破。ピッチ内外で日本人の意地を見せた一戦だったと今でも思っている。

(運動部デスク・瀬谷 宏)