少し前の話になるが、3月8日に行われたピン芸人ナンバーワン決定戦「R―1ぐらんぷり」が無観客で開催され、野田クリスタルが優勝した。

 無観客での開催が決定したのは2月27日のこと。それから約2か月たった今では、お笑いのイベントの無観客開催は当然のように受け止められている。それどころか「無観客でもイベントをやってはいけない」という流れになっているが、2月下旬ごろはまだ、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐ必要性が言われ始めたばかり。それだけに「まさかお笑いの賞レースを観客を入れずにやるなんて」と、このニュースに驚いた人の方が多かった。

 この決定に驚いたのは、出場するお笑い芸人も同じだった。R―1では決勝の舞台だけでなく、準決勝の敗者の中から1組が復活する「復活ステージ」も観覧中止となった。これが決まった当日、私は「復活ステージ」に出場する三浦マイルドに連絡したが、返ってきた答えは「初めて聞きました」だった。状況を説明すると最初は驚いていたが、すぐに「でも、やるしかないです。どんな状況でもやるのが芸人です」と気合を入れ直していたのはさすがだった。

 2013年の「R―1ぐらんぷり」に優勝した三浦だが、ブレークすることができず、その後はつらい芸人人生を送っていた。大阪から東京に拠点を移したが、ほとんど仕事はなく、出演する舞台するままならなかったという。以前、取材した時にはこんなつらい舞台もあったことを明かした。

「飲んでる客の前でネタをやる居酒屋があるんですが、『終わったら賽銭箱持って客のテーブルを回ってくれ』と言われて…。あるお客さんがクシャクシャに丸めた1000円札を僕の口の中に入れようとしたんです」

 さすがに“それはできない”と思ったが「1000円札を見て思わず、口を開けてしまった(笑い)。その時400円しか財布になくて、一瞬口を開けたけど『アカン、アカン』と。『すいません勘弁してください』と言いました」。

 残念ながら復活ステージを勝ち抜くことはできなかったが、こんなつらい経験をしているだけに、無観客の復活ステージにも「気合を入れてやる」と前向きになれたのだろう。

 現在は、所属の吉本興業の劇場も公演中止となっており、お笑いのライブも行われていない。芸人には厳しい時期が続くが、また三浦が舞台で輝く日を待ちたい。

(文化部デスク・藤野達哉)