新型コロナウイルスの猛威が止まらない。世界中の都市が封鎖され、株価は暴落。全人類の脅威となっているが、記者自身は冷静に今回の状況を見ている。というのも11年前に今回と似たようなパニックをあるプロレスラーを通して、リアルタイムで体感していたからだ。

 2009年4月にメキシコで発生した新型インフルエンザは若者を中心に感染が爆発した。得体の知れないウイルスに世界は震えたが、この時、現地から本紙に緊急リポートしてくれたのが、現在WWEマットで活躍するプロレスラーのKUSHIDAだった。

 当時、KUSHIDAはハッスルを退団し、武者修行のため、単身メキシコへ渡っていた。直後にウイルス禍に巻き込まれ、興行は中止。日本へ帰国しようにも飛行機のチケットは取れずに困り果てていたところに記者が「メキシコの街ルポを頼めないか?」と依頼したのだ。

 街に出ることは感染のリスクがある中、KUSHIDAは「やります」と即答。連日、マスクが手に入らない事情、キス禁止令が出た話、さらには夜の飲み屋街まで精力的なリポートを送ってきてくれた。毎日、KUSHIDAと打ち合わせをしながらウイルスの恐怖が十二分に伝わってきたものだった。現地からここまで詳細なリポートを送っている日本のメディアは他になかったと記憶している。

 KUSHIDAが体を張ってくれたのは、本紙との付き合いもある。KUSHIDAは大学生時代、本紙編集局でアルバイトしており、記者を志したこともあった。結局、プロレスラーの道へ進んだのだが、東スポ魂は失われることなく、未知のウイルスの脅威を伝えてくれたのだ。

 現地リポートは10日にわたって続いた後、KUSHIDAは無事帰国。ねぎらいのごちそうはファミレスだったことは今でも申し訳なく思っているが、最終回で寄せた“生還5か条”は今回の新型コロナでも対応できるため、再掲したい。

(1)手洗い、うがいの徹底…ペットボトルの水を携帯し、頻繁にうがい

(2)体力の消耗を抑える…よく寝て、オレンジ、バナナ、アボカドをはじめ、サボテンも食べていました。ビタミン、ミネラル豊富の果物をよく取った

(3)異性との夜の接触を避ける…夜の誘惑が多い中、出歩かずにお預け。信頼できるパートナーと愛を育みましょう

(4)ラテン系になりきる…

 メキシコ市民はパニックに陥ることはなかった。“大丈夫じゃない時も大丈夫”と言いきるほどの楽観主義の国民柄。恐ろしいほどの冷静さは学ぶべきところはある

(5)最後に…日本人は過剰・過敏反応し、心配性。ウイルスとアミーゴ(友達)になってやるぐらいの気の持ちようが、余計な不安を払拭できるはず

 この時、パンデミックとなった新型インフルエンザは今では一般的なA型インフルエンザとなった。新型コロナもいつかワクチンや治療薬ができると信じ、感染拡大させないためにKUSHIDAの言葉をぜひともかみしめてもらいたい。

(文化部デスク・小林宏隆)